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みずほ、第一生命、りそなトップが鼎談 インパクト投資への「課題と葛藤」(1/2 ページ)

» 2024年09月12日 08時00分 公開
[中西享, 今野大一ITmedia]

 社会・環境課題である再生エネルギーなどの分野を、民間の金融機関が連携してサポートする新しい投融資形態「インパクトファイナンス」(インパクト投資)が、この数年で増えてきている。

 参加者が共同してインパクトファイナンスの啓蒙と普及を目指す「インパクト志向金融宣言」は2021年11月、21社の銀行、保険会社、運用機関などが参加したイニシアチブとして発足した。現在は既に80社が参加。インパクトファイナンスの認知度も高まり、市場の環境も整い、政府の政策にも取り込まれるようになった。金融機関がこのファイナンスを活用して社会課題解決のための新たな役割を担おうとしている。

 8月28日にはインパクトファイナンスへの理解と支援を広げようと、りそなホールディングス(HD)の南昌宏社長、第一生命保険の隅野俊亮社長、みずほフィナンシャルグループの木原正裕社長の3社トップがそろい、自社の現状について説明。期待感を表明した。

左から、りそなホールディングス(HD)の南昌宏社長、第一生命保険の隅野俊亮社長、みずほフィナンシャルグループの木原正裕社長

みずほ、第一生命、りそな 「3社のトップ」は何を語った?

 「金融宣言」から始まった金融界の新しい取り組みは、社会課題を解決するための金融のニーズが高まったことから、参加者と取引残高が増えている。

 インパクト投融資を推進するグローバルなネットワーク組織の日本支部であるGSG Impact Japan(旧GSG国内諮問員会)の調査によると、日本の2023年度のインパクト投融資残高は、前年比97%増の11兆5414億円に。金融宣言への参加組織数も年々増加し、最近では山陰合同銀行、肥後銀行などが加わり、地方の金融機関も増えている。

 GSG Impact Japanのアンケートによると、形態としては融資が43%、上場株が23%、債券が20%となっている。2021年のサステナブル投融資は、全世界で4400兆円にもなる。一方、インパクト投融資は170兆円で、サステナブル投融資と比べると少ない。

 サステナブル投融資のうち、サステナビリティ・リンク・ローン(SLL)、同リンク・ボンド(SLB)では達成目標が設定されている。達成した場合の適用金利は、適切な市場金利ではあるものの、当初の水準よりわずかながら引き下げられるものもある。一方、期限までに目標に到達できなかった場合には、ペナルティとして金利が引き上げられるという。環境団体への寄付を要請されることもある。

 環境省によると、環境対応意識が強まってきた2019年から、CO2排出量などの環境目標を取引先企業が達成した場合には、融資金利を安くするSLLが始まり、7月末現在で約1400本が組成されているという。

投資対象を環境以外に広げる

 金融機関が、なぜ本業を通してインパクトファイナンスを含めたサステナビリティ投資を始めているのか。みずほの木原社長は、その意義を指摘した。

 「みずほの前身の第一国立銀行を創業した渋沢栄一の『公益』の考え方にもつながるもので、みずほの行員にもサステナビリティ的な考えは脈々と引き継がれています。(サステナビリティの)当初の取り組みは環境に偏っていました。これからは人権や多様性、格差など、もう少し広げていかなければならないと思い『インパクトビジネスの羅針盤』を作って、取り組むことになりました。経済的価値だけでなく社会的価値を追求することによって評価されること。これが企業の使命だと思います」

 第一生命の隅野社長は、今後もインパクト投融資を積極的に推進していく考えを明らかにした。

 「当社は創業当初からその時々の社会課題の解決を志向してきました。生命保険の生業は、保険金の給付を通じて『将来世代』へバトンを引き継ぐビジネスをしているので、最大のステークホールダーは将来世代です。100年後、この社会が存在し続けていなければ、当社のサービスは何の意味もなくなります。資金の流れを可能な限りインパクト志向に振り向けて、社会課題を自律的に解決する資金循環を実現していきたい。インパクト投融資を通じて発揮すべきインパクトの内容、質、量の在り方については答えがまだ出ていません。経営陣としてしっかりと探求して、コミットしていきたい」

 同社は2023年までにサステナビリティテーマ型投融資に2.5兆円、環境・気候変動ソリューション投融資に1.2兆円を投入。2030年に向けてサステナビリティには5兆円、環境では2.5兆円を投融資する計画だ。

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