日立製作所が生成AIサービスを本格的に開始する。8月29日には都内で報道機関向け勉強会を開き「業務特化型LLM構築・運用サービス」と「生成AI業務適用サービス」を10月1日に提供すると発表した。
日立は、ChatGPTのような汎用の生成AIとは異なり、顧客のニーズに応じた特化型のLLMを提供する。サービスの総称は「生成AI活用プロフェッショナルサービスpowered by Lumada」で、日立が掲げるDXブランド「Lumada」の一つと位置付けている。
日立がLumada事業を立ち上げたのは2016年。現在NECや富士通などの各社がDXブランドを掲げているが、それらに先駆けて始動していた。
Lumadaに生成AIを乗せることによって何が変わっていくのか。勉強会ではGenerative AIセンターの吉田順センター長と、生成AIアプリケーション&共通基盤室の元山厚室長がプレゼンした。
日立は、デジタルテクノロジーを駆使した社会課題の解決と「Society 5.0」の実現を目指している。今後、見込まれる社会課題の例としては、2040年には建設後50年以上が経過する施設が増加。加えて国内の労働供給人口が1100万人不足するなどの予測が立つ。2050年には、生産年齢人口が5275万人(2021年から29.2%減少)に減少する一方で、高齢化率は37.7%に増大(2021年から8.8%増加)する見込みだ。
日立はこうした将来起こり得る社会課題を解決するために、Lumadaを軸にしたデジタルソリューションを展開している。特に深刻なのが人口減社会による人手不足だ。日立はグループ一丸となった「One Hitachi」で課題解決にまい進している。
日立の強みはOT(Operational Technology)にある。OTとは工場や発電所などに使われる、物理的なシステムや設備を最適に動かすための制御・運用技術の総称で、インターネット社会が到来する前から日立が基幹事業としている技術だ。そこにPCやソフトウェアなどITを組み合わせることによって「IT×OT」という日立独自の強みを発揮する。その強みを生かしてデータから価値を創り出すのがLumadaであり、今回は生成AIを取り入れることによって、動きを加速させる構えだ。
「日立グループには、約27万人の従業員がいます。この27万人が生成AIを日々活用していくことによって、ナレッジを蓄積させています。このナレッジを顧客に提供していくことで、人材不足などの課題解決に取り組む狙いがあります」(吉田センター長)
日立は1960年代からAI研究を続けている。この蓄積に加え、NVIDIA、AWS(Amazon Web Services)、Google Cloud、Microsoftとの連携も進め、顧客のニーズに合わせてLLMを選択し、生成AI環境を構築できるようにした。生成AI活用による生産性向上や、AIソリューション開発、人材育成につなげていく。
吉田センター長によると「既にさまざまな業界から自社で独自のLLMを運用したいという声が上がっている」という。「運用環境としてはパブリッククラウドで作りたい声が多いですが、中には高いセキュリティの観点から、オンプレミスでLLMを運用したいという声もありました」
ITの分野で日立が得意とする技術に、独自のハードディスクやSSDといったストレージ開発がある。これらを組み合わせたサーバ運用は、優位性のある技術だ。ここにNVIDIAのGPUを組み合わせることによって、独自のオンプレミス環境でのLLMを構築している。
製品名は「Hitachi iQ with NVIDIA DGX」だ。それまで他社製品では80時間学習に掛かっていた時間を、4時間に短縮できるという。1年単位で時間が必要だった処理を、1週間以内に完了するほどの速さになり、オンプレミスでのLLM構築を現実的なものにしている。
生成AI活用プロフェッショナルサービスでは、生成AIを活用したコンサルティングサービスや、生成AIをアプリケーション開発など業務への活用に特化させるサービスを提供する。
既に多くの企業が、ChatGPTなどの汎用LLMを業務に活用している。業務特化型LLMでは、企業が持つ固有のデータを業務知識として学習させ、専門業務に適した規模や精度のLLMを構築する。
「人手不足の解消や自社知識と技術の継承、企業の競争力強化につなげる狙いがあります。日立では顧客の事業領域や業務に合わせてLLMをカスタマイズし、顧客に合わせた業務特化型LLMを構築していきます」(元山室長)
業務特化型LLMを構築する上で、2つの壁があるという。一つは、業務レベルの回答が得られなかったり、熟練者の知見のインプットが不明であったりすること、そして学習方法やデータの作り方が分からないといった回答精度の問題だ。もう一つは、設備投資の困難さや、環境の構築・運用ノウハウがないといった学習環境の整備の問題がある。
前者の回答精度の問題には一般的に、テキスト生成に外部情報の検索を組み合わせることで回答精度を向上させる「RAG」によって対処している。
一方の学習環境の整備には、日立のデータセンターに生成AI基盤を構築し、構築・運用技術を蓄積することによって対処しているという。ただ単に生成AIのサーバ環境を拡充するだけでなく、そこから発生する膨大な熱や、消費電力に対応するための空調や電源設備の設置も進めている。
これらによって「業務特化型LLM構築・運用サービス」を提供できるようになった。新サービスではLLMを提供するだけでなく、日立のデータサイエンティストやLLMエンジニア、GPUエンジニアなどがend to end(上流から下流まで)でサポートするという。
「2023年から日本で生成AIが話題を集め、日立でも1000件以上のユースケースを得ながら開発を進めてきました。その中で、生成AIを業務に本格的に活用し、現場の人手不足の課題にも取り組めると考えています。これまでDXを推進し蓄積してきたノウハウや既存技術も組み合わせながら、顧客の課題解決に取り組みたいと思います」(吉田センター長)
日立が自社の業務特化型LLMと、Lumadaを組み合わせたことによって、今後どのようにLumadaが進んでいくのか。そして他社はどのように対抗していくのか。今後の動きに注目だ。
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