地震や大雨などの災害発生時に、SNSなどを通じて広がるデマや偽情報が社会問題となっている。住民の安全を守るため、自治体には正確な情報収集と発信が求められるが、限られた人員で被害状況を速やかに把握するのは難しい。
こうした中、報道ベンチャーのJX通信社(東京都千代田区)が、全国の自治体と連携し、情報収集と発信の効率化・迅速化を目的とした防災DXを加速させている。どのような取り組みなのか。
JX通信社は、XなどのSNSをはじめとするビッグデータから、AIが災害や事故などのリスク情報を検知して配信するSaaS型防災DXサービス「FASTALERT」(ファストアラート)を運営している。BCP対策として一般企業が導入するほか、警察、消防、自治体などでも導入実績があるという。
2024年元日に発生した能登半島地震においても、FASTALERTはSNSなどに投稿された道路陥没や建物の倒壊、輪島市の大規模火災などの情報をいち早く検知している。
(関連記事:SNSが捉えた能登半島地震 進化する「企業防災」の形とは)
一般ユーザー向けに提供するニュース速報アプリ「NewsDigest」には、身の回りで発生した災害などの情報をユーザーが発信できる機能を搭載。提供された情報はFASTALERT上にも反映される仕組みだ。
同社は9月20日、能登半島地震で被災した石川県能登町と協定を結んだ。FASTALERTとNewsDigestを通じて収集した情報を、AIと同社スタッフが二重でチェックし、偽情報ではないと確認できたものを町に提供。町は防災メールなどを通じて住民に情報を発信し、迅速な避難につなげることを目指す。
同町は能登半島地震の際、情報収集が後手に回るなど課題意識があったという。同社の米重克洋・代表取締役は「昨今、災害が頻発・甚大化しており、AIデータや気象データなどの膨大なデータの中から必要な情報を必要な時に使うことが、災害対応力の向上につながる」と説明。「能登半島地震の教訓を踏まえて、能登町の皆さんの災害対応力強化に寄与できれば」と話した。
同様の取り組みは、全国で8例目。北陸3県の自治体では初めてだという。
同社は自治体との連携に加え、住民を巻き込んだ防災DXに注力している。2023年3月に協定を結んだ佐賀県嬉野市では、同年4月に市職員と住民が参加する防災訓練を実施し、FASTALERTやNewsDigestの使い方を確認した。
米重氏は「災害対応力を向上するには、公助だけではなく、自助・共助を同時並行で行うことが必須」だと話す。防災のデジタル化を進めることで、行政による公助を後押しするとともに、アプリ活用を通じた住民の自主防災にも生かしてもらう狙いだ。
自然災害をはじめとする不確実な事象への備えは、人手だけでは限界がある。デジタル活用によって、自治体防災の形は、今後さらに進化を遂げていきそうだ。
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