有価証券報告書における人的資本情報の開示が義務化されてから、2回目の決算期を迎えた。2023年と2024年を比較すると、企業の開示内容に変化は見られたのだろうか。
リクルートマネジメントソリューションズが820社の有価証券報告書をリストアップし、調査した結果を「メディア共有会 開示義務化から2年、人的資本経営はどう変わったか〜有価証券報告書の開示状況と、今後の取組テーマを考察する〜」で発表した。
人的資本「開示2年目」の今、各社の現状はどのように変化しているのか。また、今後企業に求められる情報開示の在り方とは。共有会の内容から紹介する。
調査の対象としたのは、2024年7月1日までに有価証券報告書を提出した企業のうち、プライムが518社、スタンダードが249社、グロースが44社、その他の9社だ。内閣官房から出されている開示指針をベースに調査フレームを設計し、有価証券報告書の定量指標の記載の有無を集計した。
まず、全体の開示率は24.2%から24.9%に上がった。最も伸びたのがグロースの17.1%から18.4%(+1.3ポイント)だった。
中でも、開示義務のない「採用」「エンゲージメントサーベイスコア」「人材育成投資額、投資時間、研修参加率」といった項目の伸びが顕著だった。それぞれ3.6ポイント、10.7ポイント、5ポイント増加した。
開示義務のある5項目以上の開示率について市場別で見ると、プライム市場の開示率が最も高く、「積極開示群」と「順次対応群」の合計が約7割、スタンダード市場では約4割、グロースでは3割未満となっており、市場ごとに開示率に差があることが判明した。
プライム市場では、開示義務のない項目を開示する動きが見られる。また、市場に関係なく開示率の伸びた情報は「エンゲージメントスコア」であった。
同社の橋本悠樹氏(技術開発統括部コンサルティング部 コンサルタント)は「2023年の統合報告書の中でプライム企業を中心に6〜7割の企業がエンゲージメントスコアを開示したことが影響しているのではないか。競合他社の情報をチェックしたところ、エンゲージメントスコアが重視すべきポイントだと捉えられたのでは」と推測した。
2024年の有価証券報告書における人的資本開示には、「独自指標の開示」という特徴もあった。指定された25項目の他に、有給の取得率、健康診断受診率、アルムナイイベントの参加人数などを開示しているケースが見られた。自社の目指す自律的な人材像を「ソリューションイノベーター」と定義し、「ソリューションイノベーターレベル」を開示する企業もあった。
「健康経営に関する項目が中心ではあるが、ソリューションクリエイターレベルやアルムナイイベントの参加人数などは事業戦略に基づくもので、自社の特徴に沿った独自性の高いものだといえるだろう」(橋本氏)
「投資家と正しく話せる企業」は“時価総額向上”につながる 対話のポイント3つ
人的資本経営で「やりがちだが、無意味な取り組み」とは 伊藤レポート検討委メンバーが語る
人的資本開示の「ポエム化」は危険 投資家に本当に“響く”情報とは
人的資本を「義務だから開示」した企業に欠けている視点──5年後には“大きな差”にCopyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング