これを前提とした望ましい人的資本経営の考え方は「Why、What、Howの順番で取り組むこと」と白井氏は言う。「いきなりHowに飛びつくのではなく、自社の理念やビジョン、経営戦略を実現するため、人的資本の観点でどのような状態を目指すのか、求める人物像は? ありたい組織像は? というものを具体化、言語化することが1つ目のステップだ」と説明する。
その上で、目指す状態を実現するための優先課題をAs-Isと照らし合わせて明確にし、最後に具体的にどのような施策を行うのか、どのようにPDCAを回すのかを考えていく。
今回の調査結果を踏まえ、どのようなことを意識して開示を進めて行くべきか。同社は下記の3点を挙げる。
これは、必ずしもオリジナリティーあふれる開示項目を作らなければならないという意味ではない。他社と同じ項目だったとしても、それを開示することにした背景、すなわち重視する戦略やビジネスモデルを明確にしていれば独自性が担保される。もちろん、項目そのものに独自性があるということもあるだろう。
重要なのは、さまざまな人的資本の情報がある中で、なぜそれを選んだのか、自社にとって何が最も重要で、優先順位が高いのかということを発信することだ。これによって、他社と差別化できる。
少子高齢化、労働流動性、事業構造変化という3つの変化に対抗するための施策を検討する必要がある。
少子高齢化への打ち手としては、採用強化や採用後のオンボーディングの強化があるだろう。労働流動性向上のためには、自社求心力の強化やインナーコミュニケーションなどによるエンゲージメント向上などができる。事業構造変化のためには、人材ポートフォリオの見直しやどの事業にどのような人材を送り込むのか、その人材をどのように調達するのかといった取り組みを具体的に説明するような情報開示が必要になってくる。
「人的資本に対する投資の成果を、財務資本に関連した数値として定量化した情報を開示している企業が多い」と白井氏は指摘する。しかし「『人的資本に投資すればもうけにつながる』とダイレクトにひも付けることに違和感がある」と言う。
「なぜなら、人的資本単体への投資を財務資本から切り出すことができないし、決まった年数で財務資本に関連した数値が得られるわけでもないからだ」(白井氏)
人的資本への投資の高まりが知的資本を刺激し、その相乗効果で財務資本へ反映される、その結果、さらに人的資本への投資が行われる好循環につながると、同社は捉えている。人的資本投資がどのように知的資本の高まりにつながるかを提示することが重要だと強調する。
人的資本情報の開示義務化が決定してから2年目を迎え、開示情報が量から質へと変化した。今後は独自性のみならず、なぜその情報を開示するに至ったのかというストーリーや、そのストーリーへの高い解像度が求められる模様だ。
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