それでは今後、人的資本経営とその開示は、どのように変化していくのか。同社は好事例の一つとして、コニカミノルタを挙げる。DXビジネスを拡大するという目的のため、人財基本戦略に「プロフェッショナル人財集団への変貌」を掲げており、人財育成体系を明確化している。
また三井住友信託銀行では、人材力強化という目的のため、健康経営、エンゲージメント強化、組織力強化とステップを踏んでいくような設計をしている。
このように、To-Be(目指す姿)とAs-Is(現在の姿)のギャップを埋めるための人材戦略やその取り組みを“一枚絵”として見せたり、特に重視しているポイントを有価証券報告書に記載したりする企業も増えているが、リクルートマネジメントソリューションズの白井邦博氏(技術開発統括部コンサルティング部 マネジャー)は「目先の打ち手にとどまっている場合が多い」と警鐘を鳴らす。
「今後10年間で会社を取り巻く内外労働市場の変化や、この先に訪れる課題にまで言及している企業、またそのような変化を踏まえて自社で何にチャレンジしていくのか、そのためにどのような取り組みが必要なのかというところまで言及している企業は多くない」(白井氏)
また同氏は、投資家が確認したいのは現在の取り組みだけではなく、それによって今後も成長し、また変化し続けられるのかだと指摘する。「変化対応力や、未来に向けた取り組みとして何をしているのかを開示することが、ますます重要になってくるのではないかと考えている」(白井氏)
では、どのようなポイントを押さえておく必要があるだろうか。白井氏は以下の3つに的を絞る。
(1)と(2)は、それぞれ少子高齢化、そして転職への抵抗感のない若者の増加と、原因こそ異なるが、いずれにしても人材採用が難しくなるという状況を示している。採用できないことにより、事業成長ができない、倒産するということになりかねないため、ここへの対策は必須となるだろう。
(3)は、DXや生成AIの登場に伴い、仕事の仕方が変わること、また新規事業に挑戦して成長するため、リソースをどのように配分するかといった内容が含まれる。
「これらに取り組むことは、投資家から選ばれるだけでなく、人材採用難の時代にあって、求職者に向けた自社のPR活動としても有効。求職者から選ばれることへつながるため、その重要性はますます高まってくる」と白井氏は解説した。
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