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なぜ「ジョブ型雇用」は機能しないのか? 弱点を補う術は(1/2 ページ)

» 2024年10月11日 07時00分 公開

 日本企業においてジョブ型雇用(以下、ジョブ型)に対する注目度が高まり、移行を進める企業も増えています。

 先の新型コロナ禍では、年功序列、曖昧(あいまい)な職務定義など、これまでの日本型雇用慣行の欠点や限界が一気に顕在化してきました。そしてそれに替わる新しいやり方として、各人の職務内容を明確に規定し、専門家としての貢献を求めるジョブ型への期待が高まっているのでしょう。

 とはいえ、ジョブ型も万能ではありません。ジョブ型の制度へと移行した会社で働いている方々と実際に話をすると、ジョブ型導入への困惑の声、ジョブ型のデメリットなどを指摘する声が多く聞かれます。

 例えば、次のような意見です。

  • 自分の職務範囲に集中した方が得だと考え、周囲と連携や協調が弱くなった
  • 自分のスキルアップへの関心は高まったが、チームメイトに対して関心が薄くなった
  • 会社のビジョンや方向性などへの関心が薄れ、目の前の仕事に過度に集中してしまう
  • ジョブ型の制度が導入されたが、みんなの仕事のし方は変わっていない。何のための制度変更なのか分からない

 ジョブ型は、確かに年功序列、配置転換の難しさ、専門家が育ちにくいなど、これまでの日本型雇用慣行の弱点を補うという観点からは、ある程度効果的と言える側面があります。また、ジョブ型は、個人に対してスキルアップのモチベーションを喚起するなど、さまざまなメリットもあります。

 しかし、当然ながらジョブ型にもデメリットがあります。そのデメリットをしっかり認識しないままに、流行に乗ってジョブ型移行を進めることは、実は大きなリスクを伴うのです。ジョブ型を機能させ、組織に根付かせるためには、そのメリットを生かすと同時に、デメリットを補うための対策が必要です。具体的に、どのように考えればいいのか、さっそく見ていきましょう。

ジョブ型雇用のデメリットを補う方法は? 写真はイメージ(ゲッティイメージズ、以下同)

著者プロフィール:塩見康史(しおみ・やすし)

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株式会社スコラ・コンサルト プロセスデザイナー。

クラシック音楽の作曲家として長年活動してきたユニークなバックボーンを持つ。

自身の芸術創造の経験をビジネスに応用し、一人一人が“らしさ”を解放し、また多様な個性が織りなす、ゆらぎや葛藤を新価値創造の源泉として生かしていくような、ダイナミックな社会と組織をつくる支援をライフワークとしている。

前職では、大手小売業の人事部門で教育体系の構築や採用戦略策定、人事制度策定に携わり、自ら変革当事者として積極的に取り組んだ経験を持つ。

スコラ・コンサルトに加わってからは、人事課題をはじめ、ミッション・ビジョン・バリュ−策定、戦略ビジョンなど、経営課題の全般にわたる知識体系を生かし、本質的な経営課題をあぶりだすアプローチを得意とする。「人間とは何か」という問いに昔から心引かれており、心理学や仏教をはじめ、哲学、東洋思想にも造詣が深い。

共著に『わたしからはじまる心理的安全性』(翔泳社)。


ジョブ型雇用の弱点を補う術は?

 ジョブ型のデメリットは、ひとことで言うと「人と人のつながり」が弱くなるということに尽きるでしょう。ほとんどの仕事は一人ではなくチームで行われます。どんな組織でもパフォーマンスを高めるためには、土台として「人と人のつながり」や「チームワーク」が不可欠なのです。

 「人と人のつながり」が弱くなると、チームで仕事をしている感覚が希薄になり、ビジョンなどの求心力が機能せず、個々人の専門性や能力がバラバラに発揮され、全体の成果につながりません。いつもボタンを掛け違っているような状態です。また、互いに対して無関心になりやすいことから、組織の雰囲気はギスギスし、お互いの力を生かすどころか、互いに力を削ぎ合っているかのような殺伐とした状態になりかねません。

 実はジョブ型の弱点である「人と人のつながり」という特徴を大切にしていたのが、これまでの日本企業の雇用慣行である「メンバーシップ型」です。メンバーシップとは共同体という意味で、まず入社した人はその企業=共同体の一員として迎え入れられます。どういう仕事をするかは後で決まります。仲間としてのつながりは強く、愛社精神を持っています。

 このメンバーシップ型と終身雇用、年功序列などの制度が結びつき、高度成長期の日本企業の躍進を支えるひとつの土台となっていました。

 そういう意味で、ジョブ型の弱点である「人と人のつながり」を補完するためには、ジョブ型とメンバーシップ型を“ハイブリッド”することが効果的だと筆者は考えています。

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