ヴィレヴァンの商品別売上構成はコロナ禍以降公表されていないが、2019年においては書籍の構成比が7%、SPICEと称する各種サブカル雑貨が同85%を占めているので、もはや「書店」とはいえないかもしれない。しかし、SPICEはあくまで書籍と出会うための空間づくりに必要な調味料であり、「菊地君の本屋」という異空間が多店舗展開したのがヴィレヴァンである。
なぜ、こうした構成になったのかといえば、「SPICEで構成した売り場が面白く、集客につながる」のが理由の1つだろう。雑貨が売れることで収益も上がり、ヴィレヴァンの基本の売り場作りとして展開されていくようになった。しかし、最大の理由は、収益構造上、書籍の販売だけでは食えないからである。
今は開示していないので以前のデータになるが、ヴィレヴァンが扱う書籍の粗利率は20%ちょっとしかない。一方、SPICEの粗利率は35〜40%ほど。その理由は、書籍流通における再販売価格維持制度(書店は出版社が定めた定価で販売しなくてはいけないという決まり)によって、書籍販売の利益が事実上低水準に抑えられていること、つまり書店がそもそも構造上、儲からないビジネスモデルになっているからである。
小売ウォッチャーから言わせてもらえば、書籍の粗利率2割というのは、大手ディスカウントストアと同水準であり、効率性の高いインフラを備えた大手でないと儲けは出ない。「最終的に書籍の粗利率3割は必要」という意見も聞くが、個人的には賛成だ。
ヴィレヴァンの赤字転落が話題となり、その経営手法に関してさまざまな意見が出ている。しかし、そもそも儲からない収益構造で各地の書店が閉店していく中、ピーク時には400店以上、減った今でも300店以上の書店チェーンにまで成長できたこと自体がすごいのである。逆に言えば「SPICEで構成した異空間で集客し、稼ぐ」という破天荒なビジネスモデルがなければ、生き残れない書店の仕組み自体に問題があるのだ。
2024年10月4日、経済産業省は「関係者から指摘された書店活性化のための課題(案)」を公表して、現在パブリックコメントを実施している。その中でも書店経営に関するさまざまな課題を抽出し、書店を残していくための問題提起がなされている。書店経営の1つの成功事例を作ってきたヴィレヴァンが赤字になったタイミングで思うのは、役所や書店関係者の力だけで何とかできる状態ではなく、書店の受益者である消費者も含めて、どうすべきか考える時ではないだろうか。
中井彰人(なかい あきひと)
メガバンク調査部門の流通アナリストとして12年、現在は中小企業診断士として独立。地域流通「愛」を貫き、全国各地への出張の日々を経て、モータリゼーションと業態盛衰の関連性に注目した独自の流通理論に到達。
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