地域金融機関によるDX支援の「夢」の実現に向けて、各銀行はさまざまな取り組みを始めている。
山梨中央銀行では、まずは自行内のDX推進体制の構築に着手している。同行コンサルティング営業部の吾妻修治部長によると、DXプロフェッショナル人材、DXマネージャー、DXプランナーといった複数のカテゴリーでDX人材の育成を進めている。「銀行自身のデジタル化経験を地域に還元することで、より説得力のある支援が可能になる」
具体的には、全営業店を巡回し、地域顧客向けのICTコンサルティングを実施している。吾妻氏は「営業店ごとの理解のバラつきをどう補正するか。DXへの理解を深めていく」と課題にも言及した。
一方、岩手銀行は異なるアプローチを取っている。デジタル推進部の本城晋弥シニアマネージャーによれば、公募で選ばれた若手行員3人がDIGITALCAMPの研修を受け、ICTコンサルタントとして活動を開始した。
「若い世代の柔軟な発想が、従来の銀行の枠を超えた支援を可能にしている」と本城氏は手応えを語る。4月から本格的にICTコンサルタント業務を開始し、半年で約100件の相談に対応している。
十六フィナンシャルグループでは、銀行本体ではなく子会社の十六電算デジタルサービスを通じてDX支援を行っている。DX事業部長の岩田規明夫氏は「子会社として取り組むことで、意思決定のスピードが圧倒的に速い」と、機動的な支援体制の利点を強調する。
右から山梨中央銀行コンサルティング部部長の吾妻修治氏、岩手銀行デジタル推進部シニアマネージャーの本城晋弥氏、十六電算デジタルサービスDX事業部部長の岩田規明夫氏。モデレーターはDIGITAL CAMP理事の鷲見大地氏(最右)が務めたしかし、これらの取り組みは、決して平坦な道のりではない。各行が直面する課題や難しさは多岐にわたる。
最大の壁は、DX支援を担う人材の確保と育成だ。経済産業省の河崎室長が指摘するように、専門性の高い人材の育成には時間がかかる。従来の融資業務とは異なるスキルセットが求められるため、即戦力の確保は容易ではない。
組織全体のDXへの理解度も課題だ。岩手銀行の本城氏は「組織として、DXを進めていこうといった空気になかなかなっていない」と率直に語る。多くの地域金融機関では、まだ一部の担当者がDXの必要性を訴えている段階にとどまっている。
さらに、顧客である中小企業側の理解不足も大きな障壁だ。経済産業省の調査によると、中堅中小企業の経営者のうちDXを「理解している」または「ある程度理解している」と回答した割合は半数にとどまる。DXに期待する効果も「業務の効率化・コスト削減」が中心で、本来のDXの目的である「新製品・サービスの創出」を挙げた企業は少数派だ。
中堅・中小企業側のDXに対する理解不足もまだ大きい。デジタル化による業務効率=デジタイゼーションにとどまっていて、ビジネスモデルや企業のあり方を変革するという本来のDXの概念に至っているところは少ないこの状況について、河崎室長は「企業が求めるDX支援サービスと、実際に受けているサービスの間にギャップがある」と指摘する。つまり、中小企業のDXニーズに対して、金融機関が提供できているサービスが十分に追い付いていないのが現状だ。
収益化の難しさも見過ごせない。DX支援は短期での収益化が難しく、経営陣の理解を得るのに苦心している金融機関も少なくない。
これらの課題は、地域金融機関がDX支援の「夢」を実現する上で、避けて通れない現実だ。理想と現実のギャップを埋めるには、戦略的なアプローチと粘り強い取り組みが求められる。
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