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「2030年までに完全自動運転車」 テスラ追う新興チューリングの戦略は?NTTグループも支援(1/2 ページ)

» 2024年12月02日 05時00分 公開
[中西享ITmedia]

 完全自動運転車の開発を進めているスタートアップのTuring(チューリング、東京都品川区)は、開発のための専用計算基盤「Gaggle Cluster」(ガグルクラスター)の運用を開始した。10月30日に都内で記者会見を開いた山本一成CEOは、今後の開発の見通しなどを明らかにした。NTTPCコミュニケーションズの工藤潤一社長と、NTTドコモ・ベンチャーズの安元淳社長のNTTグループ2社のトップも登壇。いかにして開発を支援していくかを説明した。

左からNTTPCコミュニケーションズの工藤潤一社長、チューリングの山本一成CEO、NTTドコモ・ベンチャーズの安元淳社長(以下撮影:河嶌太郎)

 チューリングは、2025年12月までに人間を介さない自動運転のできる車を東京都内の路上で30分間走らせるプロジェクト「Tokyo30」を、2024年3月から進めている。現在も、試験運転車を走らせて既にデータを収集中だ。この計画はドライバーのいない完全自動運転、いわゆる「レベル5」の車を一般道で走行させるもので、実現すれば、日本最速での完全自動運転車が誕生することになる。

 同社は2030年にはこの完全自動運転車を実用化させたいとしており、山本CEOは「人が運転するよりも圧倒的に安全な車を作るのがわれわれの使命だ。先頭集団についていきたい」と実用化に強い意欲を示した。

山本一成(やまもと・いっせい)東京大学大学院修了後、スマートフォンのアプリを開発するHEROZに入社、2013年に作成した将棋ソフト「Ponanza」で将棋電脳戦の第2局でプロ棋士を破り、17年には同じソフトで佐藤天彦名人(当時)をも撃破したことで話題になる。その後、自動車産業に注目し、21年に自動車スタートアップ、チューリングを創業、CEOを務める。38歳。愛知県出身

カメラのみでデータ測定 驚きの“実用化計画”とは?

 現在、世界の主要な自動車メーカーは、自動運転車の開発に向けてしのぎを削っている。米国のサンフランシスコでは米Google(グーグル)が開発し実用化した自動運転タクシー「Waymo」(ウェイモ)が走っている。一方ほかのプロジェクトでは、まだ技術的な問題点があり、実用化されていないのが現実だ。

 現段階では米国のEV(電気自動車)大手のTesla(テスラ)が自動運転車をいち早く実用化しようと、多くの実験車を走らせてデータを収集している。そうした中で、既存の自動車メーカーではないベンチャーが、Teslaと競い合う形で、大手自動車メーカーよりも先に完全自動運転車を実用化する具体的な計画を発表したのは驚きだ。

 チューリングでは、車に積んだ6台のカメラ使い、走行に必要な360度の周辺データを測定し、そのデータを処理して安全を確かめながら走行する。この自動運転モデルの学習にはNVIDIAの最先端半導体「H100」のGPU(画像処理半導体)が使われている。

自動運転モデルの学習にはNVIDIAの最先端半導体「H100」のGPU(画像処理半導体)が使われている

 これまでの自動運転では、走行中に信号など外部インフラと相互通信をしながら走行するシステムが考えられていた。一方チューリングのシステムは、カメラからのみのデータを活用するのが特徴だ。

 山本CEOは「当社が開発したAIモデル『TD-1』には、歩行者や車、バスなどのオブジェクトが、どのような状況で、どう動いていくかを深く理解させる必要があります。今後は、どのメーカーも実現していない、対向車などの障害物がどのように動くかを予測して、自動運転ができるように整備していきたいです」と意気込む。

自動運転AI「TD-1」を開発(プレスリリースより)

 これを実現するためには、人間の頭脳と同等以上の高度な判断に基づいて走行できる自動運転モデルを開発する必要がある。そのために重要なのがGaggle Clusterによる高速な計算スピードだ。NVIDIAの複数のGPUを同時に使用することによって、通信速度をスピードアップでき、それにより処理速度を速め、複数のモデルの開発をより強力に推し進めることが可能になるという。

NTTグループ2社も支援

 現在チューリングは試験運転車の走行により、3500時間ほどのデータを収集している。だが、Tokyo30実現のためには、まだまだデータが足りない。2025年までに、雨や風の強い日、混雑時など、あらゆる条件下でのデータを集めて、この自動運転システムに学習させたいとしている。

 先行するTeslaは、既に10万時間を超える大量のデータを収集しているといわれ、チューリングとしてはデータ蓄積の観点からも急いでキャッチアップしたい考えだ。全ての条件のデータを集めておけば、同社が目指すドライバーを必要としない、AIが全ての運転を制御する「End to End」の自動運転走行が可能になる。 

 今回のシステムの開発にあたって、NTTグループ2社の支援が不可欠だった。ひとつはAIを核とする技術面、もう一つは資金面のサポートだったという。

 技術の観点では、GPU基盤の構築を担当したNTTPCコミュニケーションズのAIを軸にした協力が開発を大きく後押しした。工藤社長は「計算基盤の高度利用でパフォーマンスを最大にするためには、GPUのチューニングをしなければなりません。われわれは、NVIDIAとは3年連続でエリートパートナーという強固な関係を維持しており(需要増加で品不足になりがちな)GPUの調達力があります」と胸を張る。さらに「2017年からこのGPUサーバを提供してきた経験に基づく運用力があります。今回のGPUサーバの構築は単純な技術の組み合わせではなく、(複雑な技術が絡み合う)『格闘技』だと思っています」と技術力に自信を示している。

NTTPCコミュニケーションズの工藤潤一社長

 もう1社のNTTドコモ・ベンチャーズは、スタートアップなどに出資や資金支援を行うコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)で、1050億円という国内最大級の運用規模がある。今回はチューリングの資金面を支援するため4月に出資を行った。出資額は非公開だ。

 安元社長は「チューリングの中長期的な事業創出を期待して出資を決めました。NTTグループのアセットを掛け合わせながら支えていきたい」と指摘している。資金調達を受けた山本CEOは「今後は海外から、もう一けた上の金額を資金調達したい」と述べ、開発を促進するために、さらなる大きな資金調達が必要になる見通しを明らかにした。

NTTドコモ・ベンチャーズの安元淳社長
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