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「ミスリード」にハマるほど面白い ミステリードラマにおける視聴者体験のトリックグッドパッチとUXの話をしようか(1/2 ページ)

» 2025年01月29日 08時30分 公開

連載:グッドパッチとUXの話をしようか

「あの商品はどうして人気?」「あのブームはなぜ起きた?」その裏側にはユーザーの心を掴む仕掛けがある──。この連載では、アプリやサービスのユーザー体験(UX)を考える専門家、グッドパッチのUXデザイナーが今話題のサービスやプロダクトをUXの視点で解説。マーケティングにも生きる、UXの心得をお届けします。

 冬ドラマが次々と幕を開けた1月。日頃ドラマをチェックしていなくても、香取慎吾さんが主演を務める連続ドラマや、バカリズムさんが監督を務める新作など、電車内の広告やSNSで、番組宣伝や評判を見聞きしている方も多いのではないでしょうか。

 数多くの作品がある中、今期は特にサスペンスやミステリー作品が圧倒的な存在感を放っています。例えば、広瀬すずさんと松山ケンイチさん出演の『クジャクのダンス、誰が見た?』や、『SPEC』シリーズの脚本家・西荻弓絵が手がけた『相続探偵』など、約10作品がこのジャンルに属しています。

1月24日に第一話が放送された、『クジャクのダンス、誰が見た?』(画像:TBSテレビ プレスリリースより)

 さらに、Netflixでは『イカゲーム2』が注目を集め、アニメでは『天久鷹央の推理カルテ』や『薬屋のひとりごと』が配信のたびに話題になるなど、サスペンス・ミステリーの人気はドラマにとどまらず、広がりを見せているようです。

 こうした話を聞くと、『金田一少年の事件簿』や『名探偵コナン』、さらには『古畑任三郎』といった作品や、そこで繰り広げられる、謎解きの快感や緊張感あふれるストーリーに夢中になった日々を思い出し、懐かしさを感じる方もいることでしょう。

 サスペンス・ミステリーの魅力は単に「結末が気になる」という好奇心だけではありません。感情を揺さぶり、脳を刺激する特有の要素が、私たちを引き込み、離さない。その「クセになる魅力」を、ユーザー体験と認知心理学の観点から掘り下げます。

ミステリーたらしめる「ミスリード」の存在価値とは

 認知心理学によれば、人間の脳は常に未来を予測し、その予測と現実の差を調整する「予測符号化」と呼ばれる仕組みを持っています。ミステリーやサスペンスを観ながら「この人が真犯人だ」と推測するのも、この仕組みが働いているからです。

 しかし、ミステリー作品には「ミスリード」と呼ばれる巧妙な仕掛けが組み込まれています。読者や視聴者を意図的に誤った方向へ導き、最後には意外な真実を突きつける。この瞬間の驚きが、作品の「面白さ」を際立たせるのです。

 さらに、人間は驚きや意外性を感じた時に脳内で「ドーパミン」というホルモンを分泌します。ドーパミンは、やる気や快感を生み出す「幸せホルモン」の一種で、ギャンブル依存にも関与するほど、強烈な作用を持っています。意外性の高い展開ほどドーパミンが多く分泌され、それが「クセになる楽しさ」を生み出しているのです。

 ミステリーやサスペンスの人気が絶えないのは、ストーリーの面白さに加え、こうした脳科学的な仕組みが裏で作用しているからかもしれません。「結末がどうなるか見届けたい」という欲求は、私たちの本能とも言えるものなのです。

ミステリー人気はストーリーの面白さはもちろん、脳科学的な仕組みも影響しているのかもしれない(画像:ゲッティイメージズより)

 また、この「ミスリード」には、学習にも大きな影響力があると言われています。いくつかの反復学習における研究では、学習の初期段階で多く間違えるほど、その後の学習が速くなることや、間違える時にその要因について熟考した方が学習が速くなることなどが分かっています。

 教育関係者がなんとなく感じていた「誤答の重要性」が、脳科学分野でも証明されつつあるのだとか。この仕組みを応用し、外国語学習アプリ「Duolingo」やオンライン学習プラットフォーム「Cousera」などのサービスでは、反復練習の中に回答者があえて間違うであろう問題を提示することで、学習効果を高めているのだそうです。

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