「あの商品はどうして人気?」「あのブームはなぜ起きた?」その裏側にはユーザーの心を掴む仕掛けがある──。この連載では、アプリやサービスのユーザー体験(UX)を考える専門家、グッドパッチのUXデザイナーが今話題のサービスやプロダクトをUXの視点で解説。マーケティングにも生きる、UXの心得をお届けします。
2024年も早いもので2月になりました。年初に「今年の抱負」を立てた皆さん、進捗はいかがでしょうか。
かくいう私も「健康のために毎朝ウォーキングをする」という今年の抱負を早々に諦めています。こんなはずじゃなかった……と思っているのはきっと私だけではないはず。
三日坊主と隣り合わせの抱負としては「ダイエット」「早起き」などいろいろなものがあります。中でも、ビジネスパーソンにとって代表的なものとしては「言語学習」が挙げられるでしょう。
「今年こそは英語を話せるようになりたい」と願って英会話スクールに通ったり、アプリをダウンロードしたり、書店でテキストを購入したり。でも長続きしなかった──そんな経験をされた方も多いことと思います。
そんな「続かない」代表とも言える言語学習で、多くの人々が「続けられている」のが、語学アプリ「Duolingo(デュオリンゴ)」です。23年時点で、月間利用者数は世界で8000万人超、日本のユーザー数は3年で5倍に増加しているそうです(テレ東BIZ「語学アプリ「デュオリンゴ」 利用者5倍に増やした戦略」)。
しかし、本当にすごいのは「継続ユーザーの数」。なんと300万人以上が365日以上、1000万人以上が7日間以上学習を継続しているといいます(日経ビジネス「世界で独走・語学アプリ「Duolingo」 学習の達成感に勝機」)。この数値は驚異的です。
どうしてDuolingoのユーザーは学習を続けられるのか。そこには、Duolingoならではの「自然と続けてしまう仕掛け」があるはず。今回は、そうした「継続する」体験に着目しながら、Duolingoの魅力を読み解いていきます。
いきなり矛盾したようなタイトルですが、ここにこのアプリの本質があります。極論、Duolingoはそもそも「ユーザーは毎日必ず勉強してくれるもの」と捉えていません。
ユーザーのモチベーションは日々変わります。言語学習の場合、海外出張や国をまたいだ会議・プレゼンでもない限りその緊急性は低く、モチベーションは上がりにくい。漫然と日常生活を送る中で、「勉強机」に向かう人なんてまずいない。仮に高いモチベーションが続いたとしても、私たち人間には突発的な予定が発生します。「毎日勉強する」なんて相当に難しい──私などはそう考えてしまう人間です。
そこでDuolingoは特筆すべきアプローチをとっています。なんと、離脱したユーザーを引き戻して、あたかも「離脱していなかった」ように扱うという裏ワザです。
Duolingoには「◯日連続で最低1回はレッスンを受講した」記録を指す「連続学習日数」という概念があります。1回でも休んだら0から再スタートと思いきや、なんとレッスンを1日や2日休んでも、ミッションをこなしたりアイテムを購入したりすることで記録を維持し、連続学習日数を伸ばすことができます。
積み上げたことを止めるのはもったいない──。そのように感じる人間の習性を「サンクコスト効果」と言います。これまで使ってきた時間やお金を無駄にしたくない、というバイアスが働き、実際には続ける方が損かもしれないのに続けてしまう。長くプレイして飽きてきているのに、ダラダラとスマホゲームを続けてしまう状態を想像すると分かりやすいでしょう。貯まった経験値やアイテム、消したくないですよね?
話を戻します。連続学習日数がストップして0に戻ってしまうと、このサンクコスト効果も失われてしまいます。ユーザーに学習を継続してほしいのなら、ルールを破った瞬間に0に戻すのではなく、サンクコスト効果を最大化させるように「抜け道」を残しておいた方が得策なのです。
そして、記録を維持するための「ミッション」も絶妙な匙加減。そのミッションとは「レッスンを5回連続で受ける」というものです。簡単すぎると「いつでも休めるじゃん」と思われてしまい、連続学習日数の価値が薄れてしまう。でも難しすぎたらいよいよ戻れなくなる。ミッションクリアのための5回のレッスンに要する時間は15分程度。ちょっと頑張れば達成できるちょうど良い負荷なのです。
習慣化してほしいサービスだからこそ、たまには休んでしまうことも考慮に入れながら「それでも続く体験」を描いておく。人間の心理を絶妙に突いた仕様といえるでしょう。
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