大企業が中途採用に門戸を開放するようになると、中小企業の若手社員が大企業に流出する流れが加速化するかもしれません。厚生労働省が公表した「令和6年 賃金引上げの実態に関する調査結果」(PDF)によると、2024年の企業の平均的な賃上げ率は、従業員5000人以上の大企業で4.8%、従業員100〜299人の企業で3.7%と企業規模により1.1%の差がありました。
高まるインフレに対応するため、従業員の賃上げを行う企業が多いですが、この点についても中小企業は大企業に及びません。元々の賃金に関しては中小企業よりも高い大企業が多いですから、両者の給与差はますます広がっていくでしょう。
結果、予想されるのは中小企業で働いていた優秀な人達の大企業への流出です。「鶏口となるも牛後となるなかれ」(強い勢力のあるものにつき従うより、たとえ小さくても独立したものの頭となれ)という言葉がありますが、それも通用しなくなります。中小企業で働き続けて役昇進するよりも、大企業に転職したほうが高い給与をもらえる可能性があるからです。
もちろん中途採用に門戸を開いたとはいえ、年収ランキングの上位に入るような大企業の採用試験は高い競争率となっており、入社は容易ではないでしょう。とはいえ、新卒採用時ほど学歴が重視されないといわれていますので、能力があっても学歴などの理由で入社できなかった人にもチャンスが広がります。転職と学歴の関係性については、統計はないものの、筆者の在籍した会社では、新卒採用者は大卒限定としていた反面、中途採用者は高卒・専門学校卒なども可としていました。
政府は中小企業の賃上げを後押しする施策として、労務費の価格転嫁ができるよう「不適切な労務費の価格転嫁事案については独占禁止と下請代金法に基づき厳正に対処する」と公表しています。
中小企業の大半は大企業から仕事を請け負う立場であることが多いため、仕事を失うことを危惧してかなかなか思うような価格交渉できない企業も少なくありません。こうした状況を打破するため、発注元の大企業が下請け企業の価格を不当に値下げすることを禁止していますが、浸透するまでには時間がかかりそうです。
このため、優秀な中堅社員が大企業へ流出することによりさらなる苦境に立たされる中小企業もあるように思われます。求人広告を出しても働き盛りの人を採用するのは難しいため、外国人の採用、高齢者の雇用、派遣・スキマバイトなどの短期人材サービス活用などにより乗り切っていかなくてはいけないでしょう。
ただし暗い話だけでありません。IT導入やDXによる業務の効率化や省人化に関しては、オーナー社長のリーダーシップや余剰人材の雇用維持を過度に考慮する必要がないため、大企業よりも早期に実現できるかもしれません。社長自身が旗振り役として社内の雰囲気を変えていくこともできるのではないでしょうか。
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