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数字に“とらわれる”マーケターの現代病 「普通のことを普通に考える」だけでいい(1/2 ページ)

» 2025年02月03日 07時00分 公開
[小林幸平ITmedia]

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日本のマーケティング最前線

“マーケティングで成功した会社”といえば、みなさんはどの会社を思い浮かべるだろうか? アップル、コカ・コーラ、P&G、ロレアルなど、よく外資系企業が名前を挙げられる。

しかし、実は日本にもマーケティングで大きな成長を遂げた会社がたくさん存在する。

本連載では、マーケティングで成功をあげるための本質的な考え方・思考法を、外資マーケティングの最前線で戦ってきた小林幸平氏が、独自のマーケティングフレームで解説する。

筆者プロフィール:小林幸平

株式会社FiT取締役


 「顧客中心主義」と「数値主義」どちらを選ぶか──現代のマーケターは今、難しい2択に迫られている。

 最近Xを見ていても、マーケティング関連のイベントを見ていても、「顧客目線」「顧客起点」がキーワードになっていることは疑う余地がない。しかし筆者は、現在のマーケターは“数字にとらわれている”人が多いと思うのだ。

 「数値主義」が広がった背景には、この10年の間にマーケターが取れるデータ・数値の幅が大幅に広がったことある。数値主義の考え方は、まず事実ベースで幅広い視野で状況を捉え、起きた事象をできる限り数値化し、比較可能な状態で意思決定することだ。

 それに対して顧客中心主義は、一人一人ののロイヤル顧客(自社製品を長く愛用してくださっている顧客)の声を拾い、そこからマーケティング施策につなげるボトムアップ型の思考である。

(写真はイメージ、iStockより)

 つまり、数値主義と顧客中心主義を同時に実現することは、右を向きながら左を向くような発想で、難しいのである。多くのマーケターは、上司から「顧客の声を聞け!」といわれることもあれば、はたまた「数字を確認しろ!」というフィードバックを受けて、困っているのではないだろうか。

 そういった悩みを聞くたび、私が伝えるようにしているのは「顧客の声を聞くことに集中しろ」ということだ。事業数値の読み解きのスキルは、もちろんセンスもあるが、地道な努力の積み重ねが重要である。

 一方で、顧客の声を聞くということは、ただただ意識し、努力するだけでは身につかないことが多い。この課題を解決するために一番重要なのは「顧客の声を聞くという、そんな当たり前なことが、”なぜできないのか?”という構造的な理由を把握すること」と「常に業務の中で意識すること」だと考えている。

データは読み解けるのに、打ち手が微妙……マーケターが陥る現代病

 顧客視点を持つことを難しくしている理由の1つに、マーケティングという仕事自体がこの数年でかなり複雑化して、ノイズが増えたことがある。

 私は恵比寿にBARを持っているが、店舗事業はある意味ストレートで分かりやすい。

 知り合いを呼んで集客してもいいし、来てくださったお客さまと話す機会がナチュラルにあるので、来店理由や満足度などを深掘ればいい。マーケティング担当を置いていないが、顧客との会話から「あ、恵比寿でBARに来る人たちはカラオケしたいんだな。じゃあカラオケを設置しよう」みたいな感じで、最近カラオケを設置した。オフラインだと顧客との接点がすぐそこにあるのだ。

 一方で、現代の多くのリアルなマーケティングの現場では、顧客との接点がオンラインであることが多い。

 Webマーケティングで集客をする場合も同様で、向き合っているのが顧客ではなく、数字にすり替わっていることがかなり多い。チーム内で「見るべき」と言われる数字を一度紙に書き出してみると、おそらく10年前に比べて今は10倍ほどに増えたはずだ。その潮流に乗って、分かりやすくマーケティングデータ管理SaaSが増えたのが証拠である。

 ここで問題となるのは、その進化の代償として、顧客と普通に話す時間は相対的に減少していることだ。その結果「それ、普通にお客さまに聞けば分かるんじゃない?」ということでさえ、難解な数字をこねくり回して、その結果“難しいデータは読み解けるのに、なんか打ち手がパッとしない”という現代病が起きている。

優秀なマーケターを見分ける2つの要素

 最近は小さい頃からiPadを使う子どもが増えていて、情報収集能力が大幅に向上している一方で、コミュニケーションを取るのが苦手なケースが増えているらしい。実はマーケティングの業界で今起きていることも同じで、取れるデータが増えデジタル化が進むことで、脳のメモリで記憶しないといけないことが増えている。その中で、最もエッセンシャルな「お客さまに答えを聞く」ことに回せるメモリが足りないケースが起こっている。

 では、これはマーケティングのチームメンバーが悪いのかというと、もちろんそうではない。こういった状況を鑑みて、CMOなどにあたる人が自らの姿勢で率先して顧客の声を拾いにいくべきだ。

 分単位のスケジュールを組んで忙しい人からすると、「1人の顧客へのインタビューに60分割くなど、非効率だ」と思うかもしれない。しかし、結局、顧客に聞くのが一番早いのだ。

 いろいろなタイプのマーケターが存在するが、「顧客に対するパッション」と「どれだけ声を拾えているか」は、その人材がどれだけ優秀かを測る1つの指標になるだろう。データの読み解きは後で教えられるが、このエッセンシャルな姿勢は、実はあんまり教えられない。

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