今回のスシローの対応はその典型だ。現時点で鶴瓶さんの行動には何の違法性もないし、人としてモラルを欠いた事実も確認されていない。にもかかわらず「お客さまの声」というムードに配慮して、鶴瓶さんを切り捨てた。一見すると、「客の声にしっかりと耳を傾けていい会社じゃないか」と感じるかもしれないが、この行動によって、例えば以下のような新しい企業リスクが生まれている。
(1)「客からのクレームに弱い企業」と露呈
(2)鶴瓶さんが注目されるたびこの件が蒸し返される
(3)アイリスオーヤマとの対比で「非情な企業」イメージ
まず、(1)についてはそもそも「企業に意見をする人たち」についての正しい認識が必要だ。
お客さま相談室やコールセンターでの勤務経験がある方は分かると思うが、今回のような問題が起きた際、企業側にあれやこれやと意見を述べる人の中には、「とにかくただ文句を言いたい人」「自分の主張を押し付けて謝罪や対応を求めることに心血を注ぐ人」というのがかなりいらっしゃる。
もちろん、社会正義のような高尚な理由からや、今回の被害女性への配慮などを真剣に考えた末、「鶴瓶を出すな!」と怒ってらっしゃる人もたくさんいる。しかし、中にはそんな深いところまで考えずに「なんとなくムカつく」「フジの会見で腹が立ったので鶴瓶も同罪だ」という理不尽爆盛りな感じの人も多いのだ。
こういう「モンスタークレーマー」の要求は、どんどんエスカレートしていくものだ。すぐに謝罪すると、「誠意が足りない」「土下座しろ」などと言ってくる。一度、返金や慰謝料に応じたら「もっと大きな額をよこせ」と迫ってくる。一度弱みを見せると、そこを突破口にして攻めてくるものだ。
これと同じ理屈で「クレームに一度屈した企業」というのは、モンスタークレーマーたちの標的になりやすい。今回の対応でスシローはまさしくそこにハマってしまった。
例えば、今後スシローの広告やキャンペーンに中止や取り下げを迫るモンスタークレーマーたちはこんな風にゴネることができてしまうのだ。
「なぜやめない! 鶴瓶CM削除のときはちゃんと対応したじゃないか!」
「鶴瓶のときは客の意見を聞いたのに、なぜ今回は無視するんだ!」
つまり、「お客さまの意見によって、鶴瓶さんの広告を取り下げました」とコメントしたということは「今回、わが社は理不尽なクレームに屈しました」と世間に発表したようなものなのだ。
だから、危機管理が徹底している企業はスシローのようなコメントは出さない。本来、イメージキャラクターを起用するか否かなど「企業側が決める」ことだ。というわけで、芸能人のスキャンダルがあって契約解除するときは「契約満了を迎えました」などと説明するのが常だ。
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