そのためアウディやポルシェの高性能EVは、走行モードに応じてスピーカーから走行音をイメージしたサウンドを放つ仕掛けになっている。
ヒョンデのアイオニック5Nは、さらに念入りだ。走行音にもいくつか種類が用意されているが、Nモード(トラックモード)を選ぶとエンジン音と排気音に似せたサウンドがスピーカーから再現される。
そればかりか、パドルシフトを操ってシフトダウンさせると、ブリッピングしてエンジン回転が高まったような音を発すると同時に、マフラーからバリバリとアフターファイアーが発する音が出るほど過激な仕立てとなっている。
これは、日産GT-Rよりもパワフルで過激な高性能EVというイメージをさらに盛り上げるための演出で、確かにドライバーの気分を大いに高ぶらせる。
クルマの騒音規制は厳しくなる一方だ。エンジンやマフラーから放たれる音だけでなく、タイヤが路面をたたき、空気を切り裂く風切り音すらその対象に含まれる。これは道路の周囲で暮らす人々にとっては切実な問題であり、現代社会においては仕方ない部分でもある。
だがそれによって、クルマで移動することを楽しむ、ドライビングそのものを楽しむといった行為が制限されてしまう、と危惧することはないのではないだろうか。
クルマ趣味も多様化する中で、クルマ本来のパワフルで野生味を感じさせる走行音を求めるために旧車へと傾倒するオーナーも少なくない。そんなオーナーたちをも満足させようと、自動車メーカーや音響システムメーカー、パーツサプライヤーは最新のモデルでも、さまざまなギミックで快適性と走行感覚の満足感を両立させようと躍起になっている。
「クルマを運転することは楽しい」とドライバーが感じなければ、世の中は軽トラックとカーシェア、タクシー、リムジンに支配されてしまう。そうならないために、自動車メーカーは個人ユーザーの満足度を高めようと必死なのである。
芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmedia ビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。著書に「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。近著は「きちんと知りたい! 電気自動車用パワーユニットの必須知識」(日刊工業新聞社刊)、「ロードバイクの素材と構造の進化」(グランプリ出版刊)。
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