クルマの「音」は演出できる? EV時代に“サウンドビジネス”が広がってきた高根英幸 「クルマのミライ」(1/5 ページ)

» 2025年02月07日 06時00分 公開
[高根英幸ITmedia]

高根英幸 「クルマのミライ」

自動車業界は電動化やカーボンニュートラル、新技術の進化、消費者ニーズの変化など、さまざまな課題に直面している。変化が激しい環境の中で、求められる戦略は何か。未来を切り開くには、どうすればいいのか。本連載では、自動車業界の未来を多角的に分析・解説していく。

 ドライバーは運転する際に、情報の9割は視覚によって得ているといわれている。しかし、実際には緊急自動車の接近や自車からの異音などに気付くために聴覚も利用しているし、加速や減速時には体でGを感じている。ステアリングやペダルに伝わってくる振動を手足で感じ取ってもいる。さらにいえば、走行中の振動やカーブを曲がるときなど、腰や背中、三半規管でも旋回モーメントを感じ取る。

 そんな風にドライバーや乗員は、走行中にさまざまな刺激をクルマから受けているが、その中でも特に刺激的なのは、エンジンが発する振動や音ではないだろうか。サーキットや高速道路であれば加減速も刺激的だが、その加速時のエンジン音や排気音はドライバーを高揚させるのに十分な刺激だ。

 EVの静かさ、滑らかな走りは、スマートでドライバーにストレスを感じさせない要素だが、エンジンの息吹や排気音はドライバーを高ぶらせる要素の一つだろう。

マツダ・ロードスターはドライビングが楽しいピュアなスポーツカーだが、昨今の騒音規制をクリアするため、排気音は控えめになり、吸気音を増幅して車内に響かせるインダクションサウンドエンハンサーというギミックもグレードにより採用されている

 昔はマフラーを交換して排気音を楽しむのは、クルマ好きの中でもかなりマニアックな行為であった。特に英国車など輸入車を乗り回して楽しむオーナーは、英国製やイタリア製のマフラーの中から、自分好みのサウンドを奏でるブランドを選び、愛車に装着していたものだ。

 1970年代から80年代にかけては、日本のマフラーメーカーは少なく、車検制度も厳しかったこともあって、こうしたモディファイ(改造)は一部のマニアだけが楽しむものだった。

 しかし1989年、当時の騒音規制をクリアした合法的なマフラーを製造するメーカーが集まってJASMA(日本自動車スポーツマフラー協会)という団体を作り、車検に通る合法的なマフラーがアフターパーツ市場に出そろうようになった。これによりエアロパーツやアルミホイールと組み合わせてスポーツマフラーを装着して、マフラーサウンドやテールエンドデザインを安心して楽しむ文化が醸成されていくのだ。

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