この記事は、榎本博明氏の著書『「指示通り」ができない人たち』(日経BP 日本経済新聞出版、2024年)に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。なお、文中の内容・肩書などは全て出版当時のものです。
インターネットやSNSの世界にどっぷりつかり、生の人間関係の世界で過ごす時間が少なくなっているせいか、人とのコミュニケーションが苦手という人が増えている。
将来の職業を考える際にも、できるだけ人とのかかわりの少ない仕事に就きたいという人や、人とかかわるような仕事は無理という人さえ珍しくない。企業などでも、採用した新人があまりにもコミュニケーションが苦手なので困ってしまうといったケースもみられる。
そんな時代ゆえに、企業などが採用時に最も重視するのがコミュニケーション力ということになってきた。ところが、コミュニケーション力を重視して採用したはずなのに、職務上のコミュニケーションがうまくできないことに手を焼く管理職も珍しくない。
一つの典型的なケースは、雑談などのコミュニケーション力はあるものの、論理能力が乏しいため、仕事そのもので行き詰まるといったものである。これは認知能力(知能検査で測定できる能力)の問題だが、もう一つの典型的なケースは、慣れない場でも、慣れない相手でも、臆することなく平気でしゃべれる、いわゆる社交性が高いのだが、人と気持ちの交流ができないというものである。
このタイプの従業員を採用して困惑している経営者は、次のように悩む胸の内を吐露する。
「ビジネスを進める上でコミュニケーション力は必須なのに、コミュニケーションが苦手な人物を採用したらまずいので、とにかくコミュ力重視ということで採用したんです」
『多くの企業がコミュニケーション力重視で採用していますよね』(筆者、以下同)
「はい。それでうちもコミュ力重視で採用して、先輩たちや上司の前でもガチガチに緊張するようなこともないし、冗談を言って周囲を笑わせたりするので、コミュ力の高い人物を採用してよかったと思っていたんです。ところが、営業で取引先を回るようになると、どうもパッとしないんです」
『パッとしない? どういう感じなんですか?』
| 筆者プロフィール:榎本 博明(えのもと | ひろあき) |
|---|---|
MP人間科学研究所代表、心理学博士
1955年東京生まれ。東京大学教育心理学科卒。東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。川村短期大学講師、カリフォルニア大学客員研究員、大阪大学助教授等を経て、現職。
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