「危機感を持て!」は逆効果? 組織をむしばむ“アオリ虫”の正体(4/5 ページ)

» 2025年02月25日 08時00分 公開
[岸良裕司ITmedia]

[事例]じり貧から赤字に陥った会社の経営改革

 世の中にない部品をいち早く開発し一世を風靡(ふうび)してきたQ社だが、国内外の価格攻勢を受けてジリジリとシェアが低下。しかも、そうした価格攻勢を仕掛けてくるライバルたちは、Q社が一番儲かっている商品群に集中して勝負をかけてくる。

 2代目、3代目の社長時代もじり貧状態が続き、産業界にとどろいていた尖ったブランドイメージは影が薄れ、ついに創業以来の赤字に転落、「危機感」どころか本当の経営危機に陥り、株主からの要求で社長が更迭、経営陣は刷新された。

 そんなQ社の労働組合メンバー3名が、経営危機のさなか、私たちが制作した、世界的ベストセラー『ザ・ゴール』のアニメ映画を観たと言って助けを求めにきた。

 「あれを見て感銘を受けました。商品や技術のイノベーションではなく、オペレーション、つまり働き方のイノベーションで会社がよくなるのだと。ウチの問題は、すべてが遅いこと。だから競合の後追いになる。みんな一生懸命働いているのになんで儲からないのか、やっとわかった気がしました」

 藁にもすがるつもりで相談に来たのだという。聞けば、2代目社長時代から「危機感を持て!」の大号令が経営幹部から発せられたが、何も状況は改善せず、3代目も同じ号令を出すばかり。危機感をあおりながらも一向に変わらない経営の遅さに、現場は辟易(へきえき)していたという。

 明らかにキキカンアオリ虫が増殖している証である。

 さらに悪いことに、後ほど紹介する「DXアオリ虫」「ヨソウ虫」も危機につけ込んで現れ、DXプロジェクトが立ち上がったり、需要予測システムを導入したりするなど現場は混乱。無駄な投資をしたことで、財務的にさらに厳しい状況に追い込まれていた。

 組合有志が考えたのは「オペレーション・イノベーション作戦」。

 現在の標準リードタイムは13週間だが、それを守れないこともあるという。最短どのくらいの期間でモノが出せるかを聞いてみると、現実の話として、クレームが経営トップに来て最優先でスケジュールを検討する時は、ボトルネックの稼働状況を考慮して納期回答をしているという。緊急の場合は1日、たいていの場合は3日間あれば十分とのことだった。

 3日間のリードタイムをすべての商品で実現する「オペレーション・イノベーション作戦」を実現するとどうなるかを「変化の4象限」でまとめたのが下の図だ。

 ご覧のように、「オペレーション・イノベーション作戦」で実現できることはいいことずくめで、むしろやらない場合のリスクは大きい。

 「変わる」ことの「マイナス」も、組合という立場を活用し非公式な労使懇談会を実施したところ、「変わらなければいけないのは経営幹部ですね」と了承を得られた。

 財務効果は大きかった。

 リードタイムが13週から3日になると、それだけで約3カ月分の棚卸在庫が減り、その分キャッシュが捻出される。それは、DX投資でドブに捨てた資金を大幅に上回る効果だった。

 オペレーション・イノベーション作戦には営業も参加、3日間のリードタイムを標準として1日の場合は価格を倍にしても売れるとのこと。

 こうした効果を社外取締役に示したところ、「成果が出たら社員に必ず報いてください」と応援してくれた。これを聞いた組合有志のメンバーが喜ばないはずがない。

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