超高速船「ホーバークラフト」16年ぶり復活のワケ 地域へのメリットは?前編

» 2025年02月27日 07時00分 公開

 2025年、大分市と大分空港を結ぶ新たな交通手段として「ホーバークラフト」が就航する。

 ホーバークラフトは圧縮空気を噴射して海上を浮上航行する船で、かつては全国各地で就航しており、1971年からは大分市と大分空港を結ぶ航路でも「大分ホーバーフェリー」が就航していたが、2009年の同航路廃止を以て国内から姿を消していた。

 廃止から約16年。なぜ、ここにきて「ホーバー復活」となったのだろうか。地元にもたらされるメリットとは――。前後編の2回にわたって紹介する。

別府の街並みを見ながら航行するホーバークラフト。なぜ「15年ぶりの復活」となったのだろうか。(写真:若杉優貴)

著者紹介:若杉優貴(わかすぎ ゆうき)/都市商業研究所

都市商業ライター。大分県別府市出身。

熊本大学・広島大学大学院を経て、久留米大学大学院在籍時にまちづくり・商業研究団体「都市商業研究所」に参画。

大型店や商店街でのトレンドを中心に、台湾・アニメ・アイドルなど多様な分野での執筆を行いつつ2021年に博士学位取得。専攻は商業地理学、趣味は地方百貨店と商店街めぐり。

アイコンの似顔絵は歌手・アーティストの三原海さんに描いていただきました。


かつては全国で就航 なぜ減った?

 以前の大分ホーバーフェリーが就航したのは、現在の大分空港が開港した1971年のことだ。当初、大分空港は大分市内にあったが、後に大分市から約60キロ離れた国東半島の埋め立て地に移転。それにあわせて、別府湾を横断するホーバークラフトの運航が始まった。

 移転開港当時は道路整備が進んでおらず、大分市内から大分空港までは自家用車で2時間を要することもあった。しかし、大分ホーバーフェリーは大分市内の旧・大分空港近くから大分空港までを30分弱で結び、早くて便利な交通手段として親しまれた。

 1980年ごろになると、空港周辺は県の主導で工場が進出し、1982年にはその中核となる大分キヤノンが空港隣接地で操業を開始。ホーバークラフトは工場関係者の足としても活躍した。

 1960年代から70年代までは全国各地でホーバークラフト航路が就航することとなったが、一般的なフェリーに比べて、

 「燃費効率が悪い」

 「騒音や波しぶきが漁業・釣り客に影響を及ぼす」

 「他の高速交通網が整備された」

――など、さまざまな理由により、次第に姿を消していった。1988年の瀬戸大橋開通によりJR(旧国鉄)宇高連絡航路が廃止となったあとは、大分ホーバーフェリーが国内最後の航路となった。

 大分でも1991年に大分空港道路が開通、さらに2002年に県内各地と大分空港が自動車専用道路と高速道路で直接結ばれるようになると、大分市の中心部から大分空港までは高速バスでも1時間ほどとなり、ホーバークラフトの利用客は徐々に減っていった。

2009年まで就航していた大分ホーバーフェリー。三井造船が手掛けた日本製の船だった。大分空港を斜めにドリフト航行する様子は「名所」の1つでもあった(写真:かんたんのゆめ)

 大分ホーバーフェリーが赤字となるなか、国内で唯一ホーバークラフトを建造していた三井造船が2016年までにメンテナンスを打ち切ることを示唆。そして、大分ホーバーフェリーは2009年9月に民事再生手続開始を申し立て、同年10月31日に運航を停止した。また、これに伴い三井造船もホーバークラフト事業から完全撤退した。

 国内では、かつて宇高連絡航路や伊勢湾、薩摩湾、そして佐渡島や沖縄など各地の離島でも活躍した旅客用ホーバークラフトであったが、ここでその歴史はいったん終わることとなった。

 また、世界各国でも一般旅客用ホーバークラフトが活躍する国は減っており、かつては韓国や香港でも就航していたが、現在は(大分を除くと)英国が唯一となっている。

復活のワケは? 経済界から期待の声も

 それでは、なぜ「ホーバー復活」となったのか。

 それは「大分空港が大分市から遠い!」ということに尽きる。

 大分空港があるのは、大分市から陸路で約60キロ、別府市からは約40キロも離れた国東市安岐町・武蔵町。大分市と大分空港が高速道路と自動車専用道路で結ばれたといえども、大分市中心部から大分空港までは大分交通の空港高速バス「エアライナー」で約1時間もかかる。

 さらに、大分自動車道は濃霧や積雪により交通規制がかかる場合が多い。そのため、主要な公共交通手段が1つしかないという状況は不安要素が大きい。

大分空港に並んで停車する空港高速バス。大分県内各地へ向かう路線がある。(撮影:若杉優貴)

 そこで県は2018年ごろから新たな高速交通手段の検討を開始。2020年3月にホーバークラフトを復活させる方針を発表し、同年10月には運航委託先としてタクシー事業などで知られる「第一交通産業」を選定。

 2022年10月には同社の子会社となる新会社「大分第一ホーバードライブ」が設立された。ホーバークラフトの船体などは県が所有する公設上下分離方式での運航となる。大分第一ホーバードライブによると、大分空港までの海上運航距離は約33キロ。陸路よりもかなり短くなることが分かる。

大分県国東半島東側の埋め立て地にある大分空港。市街地から大きく離れた立地だが、空港が開設されたことにより周辺には複数の工場が立地している。(写真:若杉優貴)

 現在、大分空港の周辺には先述した「大分キヤノン」をはじめとした多くの企業・工場が立地する。そのため、ホーバークラフトの復活による交通利便性の向上は企業から歓迎の声があがっており、県は国東エリアの新たな産業・観光振興にも期待を寄せている。

西大分港から「入水」するホーバークラフト。船体には第一タクシーと同じロゴが。実は親会社・第一交通産業の創業者は大分県出身だ(写真:若杉優貴)

 さまざまな期待を背負って復活が決まったホーバークラフトだが、課題も抱えている。後編で詳しく見ていきたい。

【参考Webサイト】

大分県「大分空港海上アクセス

大分交通

大分第一ホーバードライブ

そのほか、大分県内で配布されている各種案内パンフレット

【取材協力】

かんたんのゆめ


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