3点目は4月からの本編放送を通じて果たしうる役割、つまり、伝統タイトルにみられる世代間の溝を埋めてそろえる役割である。本章ではジークアクスビギニングの内容にある程度触れざるを得ないため、映画を視聴した後にお読みいただきたい。
1979年の機動戦士ガンダム放送開始から現在に至るまで、ガンダムシリーズは世代を超えて愛されてきた。しかし、時代の変化とともにシリーズ・作品ごとの「コア層」と「新規に近いライト層」もしくは「潜在的ファン」の間に溝のようなものが生じていたことも否めない。
何より半世紀近く前の作品である。これだけコンテンツがあふれる現代社会において、10〜20代が20世紀の作品に触れる機会は多くなく、またモチベーションも得難いだろう。本作はその溝を埋める架け橋となる可能性を秘めている。
長年のガンダムファンにとってジークアクスビギニングは、原典ともいえる機動戦士ガンダムの世界に対するリスペクトと革新的再解釈が絶妙に調和している作品だ。シャア・アズナブル、シャリア・ブル、そしてアムロ・レイといった伝説的キャラクターたちが「別の可能性」の中で描かれることは、原典を熟知する古参ファンにとって「知っている世界における新たな冒険譚」ともいえる。
一方、2010〜2020年代から各種コンテンツに触れた若い視聴者は、ポケモンシリーズで親しんだ竹氏によるキャラクターデザイン、絶大的な人気を誇る米津玄師氏による音楽、そしてエヴァンゲリオンシリーズの鶴巻和哉監督の映像など多くの要素に導かれ、ガンダムシリーズである本作品に触れる障壁が下がっていることだろう。もちろん、2022〜2023年に放送された『機動戦士ガンダム 水星の魔女』が若年層からも高い評価を獲得した背景もある。
また、ジークアクスビギニングでは前後半でビジュアルを使い分けている点も特筆すべき取り組みである。通常は全編を通じてキャラクターデザインを統一するものであるが、導入部である前半パートでは安彦良和氏のオリジナルデザインに忠実なビジュアルで、ジークアクス本編の時期に移る後半部分では現代のビジュアルで描かれている。
もしかしたら、本作品における描き分けは単に「古い時代」と「新しい時代」を描き分けるという機能的区分だけでなく、ストーリーの根幹につながる確固たる背景があるのかもしれない。
このように、原典を知る古参ファンから近年ガンダムシリーズを知った世代までが受け入れうる二面性を持っており、この二面性こそが、本作を単なるシリーズファン向け作品ではなく世代を超えた大ヒットを予感させる要因の一つである。
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