そこで2点目の役割、熱量の増加である。これには本映画の内容、ストーリーが大きく寄与している。視聴済みの方は理解できるだろうが、ジークアクスビギニングは『機動戦士ガンダム』という冠を被ったタイトルとしてはあまりに挑戦的な内容、展開のストーリーとなっている。公式からの事前情報が少量だったこともあり、1月17日の上映開始後は瞬く間にSNSのトレンド上位となり、「こんなことが許されていいのか」「ネタバレされる前に見ろ」「緑のおじさん」などのネットミームも交えた本作に関するワードがネット上を飛び交った。
非常に興味深いのは、これらの驚きの声や推奨の声の多さに対し、その理由たるストーリー内容に関するいわゆるネタバレの声が少なかったことである。
これは同作をサンライズと共に制作しているスタジオカラーの他作品でも見られる事象であり、公式からの事前情報を少なくしネタバレを極小とする、更に公開直後に見たファンもネタバレを控え「見るべき作品であること」のみをSNSで拡散するというものである。
過去には『シン・エヴァンゲリオン』や『シン・ゴジラ』でも同様の事象が見られた。これにより、いわゆる「鍛えられたファン」によるムーブメントがライトファンにも広がり、コンテンツを皆で楽しもうという空気が醸成される。
ネタバレは表層的なものにとどまり、「コア層が強く推奨する作品である」という事実のみがライト層にも届く形で拡散し続け、ライト層を動かし、公開初週から第2週にかけて興行収入・観客動員数が増加するという比較的珍しい結果につながった。
もちろん、熱量増加に寄与したのはストーリーの内容だけにとどまらない。本作はその体験様式においてもシリーズ内で特徴的なアプローチを行っている。
ガンダムシリーズ史上初のIMAX形式での上映、2月下旬のMX4D・4DX体感型シアター形式の提供、本編終了後の特別映像追加などの企画も、単なる映像コンテンツの視聴にとどまらず、日常(放送・配信)が始まる前の「非日常イベント」として位置付ける意図があることだろう。この日常と非日常の使い分けは、過去の記事(映画『ルックバック』成功から浮かび上がる、集英社の思惑とは:エンタメ×ビジネスを科学する)でも取り上げている。
タイトルが人気を博すきっかけを作り、ファンの熱量を増加させる。ここまでが2月末までで現実として起こった事象であり本タイトルが果たした役割である。
「ポケポケ」はなぜ大人も"ドハマり”するのか? 類似ゲームが見逃した「快感」への強烈なこだわり
海外ゲーム『ゴースト・オブ・ツシマ』はなぜ、“史実と違っても”受け入れられたのか?
ニンテンドーミュージアムは京都・宇治市の観光を救う? 「資料館」が地域にもたらすもの
模倣品か、世紀の傑作か――「パルワールド」が熱狂を生むワケ
「アーマード・コア」10年ぶり新作が爆売れ “マニア向け”ゲームだったのに、なぜ?Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング