日本企業がもっと注目すべき「インド」の価値 地政学的観点から考える

» 2025年03月09日 08時00分 公開
[田村耕太郎ITmedia]

この記事は、田村耕太郎氏の著書『地政学が最強の教養である』(SBクリエイティブ、2023年)に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。なお、文中の内容・肩書などはすべて出版当時のものです。

 日本とインドの相性はいい。広島の原爆記念日である毎年8月6日にインドの国会が会期中の際は黙祷を捧げている他、昭和天皇崩御の際にはインド全土が3日間喪に服したほどである。

 私は世界最大のインド系インターナショナルスクール、GIISを運営する財団GSFのアドバイザリーボードメンバーとしてGIISの日本でのキャンパス拡大を支援している。

 現在日本に3キャンパスあるが、2023年にはキャンパス倍増を目指す。その理由は日本人のお子さんからの申し込みが殺到して残念ながらお断りをしないといけない状態だからだ。

  • インド式の数学
  • サイエンス重視の教育
  • 全て英語でインド系の子どもたちと学ぶ

 これらの点が日本人の親御さんに高く評価され、ほとんどマーケティングをしていないのに、2021年の受験者の約8割が日本人のお子さんとなっている。インド系インターナショナルスクールで学びたい、学ばせたい、という日本の親子の方々が増えている。

 私はこれはいい傾向だと思う。突破力のあるインド系と詰めの細かい日本人が若い頃から同じ釜の飯を食べて成長していくことに大きな意義があると思う。インド系人材は、米国はじめ世界中でビジネスリーダーとして活躍するが、日本人は彼らと補完関係にある。

 若者が多く、競争の激しいインド社会で、自己主張して勝ち抜こうとするインド系と、職人気質で重箱の隅を楊枝(ようじ)でほじくるような完璧主義的教育・社会風土で育つ日本人は、GISのクラスで見ていてとても相性がいいのだ。

若い巨大市場を生かせ

 日本でもこれからインド系の人材が、エンジニアから医療・介護、ホスピタリティ産業まで幅広く必要となってくる。社会にもインド系が浸透してくる。

 人口が減少し続ける日本とは異なり、インドでは毎年約2500万人もの新生児が生まれている。先にもお伝えしたように、国連の予測では、2023年にも中国を抜き、世界トップの人口になると言われている。しかも全人口約14億1000万人のうち、半数以上が25歳以下である。

 トータルの人口が少ない上に、平均年齢も47歳の日本とは違い、インドの平均年齢は20歳も若い27歳だ。

 しかも、地政学的にはインドもシーパワー。シーパワー同士は相性がいいと言われている。

 「遠交近攻」の理論から考えても、日本とインドは地政学的に組みやすい。中央集権的な強権国家ではなく、両国とも自由民主主義国家であることも、ビジネスを進めやすいだろう。

増加を続ける対インド投資

photo (提供:ゲッティイメージズ)

 2021年のインド進出日系企業数は1439社となり、2016年と比較すると134社増え、この5年間で着実に増加。日本の対インド投資は、2000年から2019年にかけて、主に自動車、電気機器、通信、化学、保険、医薬の分野で320億米ドル(4兆8000億円)となっている。

 岸田首相は2022年、インドで官民の経済フォーラムに出席し、官民で5兆円の投資目標を明示。直接投資の金額や進出企業数を増やしたいとした。交通インフラの整備などを進め日本企業の工場誘致もサポート。2014年に当時の安倍晋三首相がインドを訪問した際に5年に3.5兆円の対インド投融資を公表したが、岸田首相はこれを上回る意気込みだ。

 日印首脳に3000億円規模の円借款にも合意した。世界銀行による各国の事業環境指標である「DoingBusiness」において、2019年版のインドのランキング(Easeofdoingbusiness)は190カ国・地域中77位で、2015年の142位(189カ国・地域中)から65位上昇。

 国際協力銀行の調査によれば、日本企業がインド進出について思う課題については、2017年度の調査結果では、1位が「法制の運用が不透明」(回答比率44.5%)、2位が「インフラが未整備」(同44%)、3位が「徴税システムが複雑」(同38.5%) であった。

 しかし、それが2018年度調査では、1位が「他社との厳しい競争」(回答比率43.7%)、2位が「法制の運用が不透明」(同36.8%)、3位が「インフラが未整備」(同35.6%) と課題内容が大きく入れ替わった。特に、「インフラが未整備」であることは、長年、インドの最大の課題とされてきたが、近年の日印が協力してのインフラ整備の進展が反映されているのだろう。

 インドがこれから先進国を目指すには製造業が必要だ。巨大な若年人口は縮小し高齢化するわが国から見たらうらやましい限りだ。しかし、一方でこの若者たちに就職先を提供できなければ、インドで今後暴動が起こるかもしれない。

 モディ首相は「Make In India」政策を掲げ製造業の育成を図る。大きな雇用を創出しないIT産業ばかりでは14億人を超える超大国は養えない。そこでカギを握るのがわが国だ。

 国内では斜陽に見える製造業でもインドではこれから必要になる産業にあたるものが少なくない。素材、繊維、食品、農業、化学、精密機械、インフラ開発、災害対策など幅広く日本は製造業のインドへの移植ができる。

 逆に大量のインドの若い人材に、日本に留学・定住してもらうことで、日本の人口増加や労働力確保に貢献してもらうことも日印双方にメリットがある。

 日本がインドとのビジネス関係を進化・深化させれば同盟も強化される。こういう風に日印経済関係が深まれば、非同盟で、どちら側とも付き合うインドの外交関係にくさびが打てる。日本が他国より有意義であるとインドが確信すれば、クアッドもインドがさらに本腰を入れてくるだろう。

インド進出はシンガポールを使え

 インド進出のゲートウェイとしてはシンガポールを活用するのがいいと思う。インド系が多く活躍するシンガポール。国家としてもインドでビジネスをする上でのインテリジェンスが集積している。インドの複雑怪奇な法制や税制も、シンガポールを活用することで、クリーンな形で煩雑さを回避できる。インドでのインフラや商業用不動産開発で、シンガポールで法人化して取り組んでいるものも多い。それらはインド出身で今でもインド国籍を有する高度人材がシンガポールの法制や税制を使ってやっている。

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