2025年2月に導入したカフェ・ベローチェでは、レジ横に広告配信用のデジタルサイネージを設置。某大手企業の音楽アプリのダウンロードを促す広告など、ベローチェを訪れるサラリーマン層にマッチ度が高い複数の広告を配信している。 広告主である某大手企業は、自社のターゲットに近いユーザーが多いカフェへの出稿により、効果的なリード獲得が可能。一方のリテール側は、レジ横のスペースを活用することで広告収入を得られるとともに、広告に連動したキャンペーンによる追加購入の促進が期待できる。
トクスルビジョンを導入した店舗数は、2024年12月現在、3041店舗。総トラフィック数は月間3127万人に達する。「今のパイプラインでは、ホテル、カフェなど5万店舗ぐらいあります。LMI独自の投資なので、きちんと効果が出る店、なんらかのリアクションが起きそうな店舗に絞っています」
この仕組みと親和性が高いのは、店舗を訪れる顧客と広告の業種との相性だという。リワードを受け取るには、フォーム入力やアプリのダウンロードなどが必要となるため、顧客が「このサービスなら登録してもいい」と感じることが重要だからだ。
QRコードをダウンロードしてもらうためのUI設計は、緻密だ。『行動経済学が最強の学問である』(SBクリエイティブ刊)の著者である行動経済学のコンサルタント、相良奈美香氏の協力を仰いで開発しているという。
「まずQRコードを大きくしないといけません。サイネージを見るのはせいぜい2秒です。その短時間で、最初に伝えなければいけないことを入れます。店舗のイメージカラーになじんでしまわないように気を付けつつ、赤、青、緑、ピンク色あたりを採用しています」
LMIはもともと1987年に群馬県で孫請けの看板工事会社として創業。その後、事業を拡大させ内装工事、ディスプレイなどの事業を拡大してきた。その間、不安定な下請けの立場ではなく、発注元と直接やりとりをする関係を構築し、経営基盤を強化してきた。
2014年にはデジタルサービスを開始して、現在は店舗空間づくりや装飾を手掛ける「インストアマーケティングソリューション事業」、データをもとに店舗空間や接客の改善を支援する「CXコンサルティング」、そして店舗空間に新たな収入源を生み出す「リテールメディア事業」の3つを展開している。
その結果、ユニクロ、マクドナルド、ロレアル、三井不動産、セブン‐イレブン・ジャパン、楽天など約1200社の取引先を持つ。「年間1万件に上る案件がありまして、今では道を歩いていると『あの看板は私たちがやった』『このサイネージも手掛けた』という感じです」
デジタルサービスにおいて、2015年くらいからAIカメラを使ったビジネスに参入した。ただ技術も確立しておらず、思ったように収益を上げられずにいた。しかし2020年の新型コロナウイルスの感染拡大によって、AIカメラの市場が一気に動いたのだ。「店舗などの入口で体温を計ったのを記憶されていると思いますが、それに対応していたのがAIカメラです。設置店が爆発的に増えていきました」
AIカメラは、その名の通り、カメラ内にAIを搭載していて、店内で客の動きを把握できる。2018年ごろからAIカメラが急激に進化した。利用客の目線をチェックするだけで、実際に視認したかどうかが分かるという。それほどの高い精度を誇るそうだ。「LINEともつながっていることで、一度、ダウンロードすれば、プッシュ通知できるのも強みです」
実際AIカメラを通して、店舗前の人の交通量、店舗に入ってきた数、客の購入履歴など、たくさんの情報を得られる。「GAFAはデータビジネスによって高い評価を得ています。私たちも多くのデータを持っていますから、GAFAのようにデータを活用するビジネスをしていくという考え方に切り替えられれば、小売業の売り上げはさらに伸びる余地はあると思いました」と、参入しようと考えた理由を語る。
サードパーティークッキーの廃止も追い風になった。「基本的に多くの企業が、広告データを取得するためにサードパーティークッキーを利用してきました。ですが今は、法規制によりデータを取れない方向性になっています。現在、使われ出しているリターゲティング広告はクッキー利用と比べると精度が落ちるので、広告主は代替できる新しい広告を探すだろうと思っていました」。その答えの1つがリテールメディアだったのだ。
トクスルビジョンはコンバージョン型の広告であり、その先には大きな市場が広がっている。しかも特許を取得しているため、同じビジネスをするにはLMIと組むしかない。もし、特許を回避する形で似たような仕組みを構築しても、ディスプレイ、配線などの室内工事は外注するしかない状況だ。ところがLMIは祖業が看板であることから、設置工事はお手の物であり、大きな強みとなる。
望田副社長によれば「導入店舗で働くスタッフが、客に声をかけるとコンバージョンする確率が上がる」そうだ。ただ、LMIもさすがにクライアントのスタッフに「客に声をかけて、コンバージョン率を上げる努力をしなさい」と指示することはできない。その意味で、LMIの営業担当者と取引先の社員教育担当者が、どれだけ密にコミュニケーションをとれるかが一つのカギとなりそうだ。スタッフに客への声掛けをしてもらうようにできるかが、肝になるかもしれない。
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