小田急電鉄は企業であるため、収益性が低いと考えられていたとしても、再開発である程度の利益を上げる必要がある。この点について、向井氏は次のように述べている。
「一般的な分譲では、1回だけお金をかけてそれを一度で回収するというモデルではありません。定性的な価値を生み出し、鉄道にも乗ってもらい、住み続けてもらうことが必要です。地元の方は下北沢への愛着が増し、我々としては事業の収益性が上がるというWin-Winの関係が築ける可能性はあると思っています」(NHKの報道より)
つまり「収益を上げる」と一口に言っても、下北沢の場合、高層ビルを建てて店舗やオフィスを増やし、すぐに利益を得ようという考え方ではないのである。まずは「街への愛着」を醸成し、それが巡り巡って持続的な収益につながる。そうした、長期的な視野に立った収益性を考えているのだ。下北沢の場合、物理的な制約から、結果的にそうなったとはいえ、この「長期的な視点で収益性を捉える」ことは、他の街の再開発を考える際にも有用だろう。
都市計画研究者の吉江俊氏は『<迂回(うかい)する経済>の都市論』(学芸出版社)の中で、高層ビルを建て、すぐにコストを回収するような「目的に向かって最短で利益を上げていこう」とする都市開発の方法を「<直進する経済>の都市」と呼んでいる。こうした考え方で行われる再開発は、短期的には利益を上げられるかもしれない。しかし、長期的な視点で見ると、本当に良いことなのか、ひいては企業の継続的な利益につながるのかの判断は難しい。
そこで吉江氏が提唱したのが、開発に手間がかかったり、すぐには利益が出なくとも、長期的な視点で利益が出るように開発を行う「迂回する経済」による街づくりの重要性だ。例えば、商業施設をテナントで埋め尽くすのではなく、あえて広場を設けて人が滞留できるようにする。短期的にはテナントがたくさんあったほうが利益が出るかもしれないが、長期的に見ればそこに人が集い、愛着が生まれるほうが、エリア全体の価値が上がる。
下北沢の場合もこの考え方が当てはまる。低層の建物に入れるテナントは限られており、短期的には利益にはなりにくい。しかし、そこに人々が集まり、やがて親世代となったときに子どもを連れて再び訪れる……そうした循環が生まれれば、長期的に「稼げる」ことになるのだ。
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