私が見る限り、この「迂回する経済」の視点を生かした開発案件は徐々に増えていると思う。例えば、1月に誕生した銀座の「ソニーパーク」。「パーク」と名前が付いている通り、建物自体にはテナントがほとんどなく、銀座の街と溶け合った公園のような空間を目指している。館内のほとんどは無料で楽しめる。
気になるのは収益性だ。ソニーパークはそこで展示を行う企業などから、フロアの利用料や壁面への広告料という形で収入を得ている。その多くはソニーグループ各社からのものだ。
具体的には、ソニーグループが自社に所属するアーティストとのコラボ展示を行い、ソニービルに対して利用料を払っている。訪れたファンが、後にそのアーティストのライブチケットやCD、DVD、グッズなどを購入し、その収益によってコストを回収する仕組みだ。展示は無料で見られるため、そこをふらりと訪れた人が、そのアーティストの未来のファンになって先々でお金を落としてくれるかもしれない。現在や未来のファンが「落とすかもしれないお金」という視点で収益性が考えられており、「迂回する経済」の代表的な建物だといえよう。
下北沢しかり、銀座のソニーパークしかり、こうした再開発や建物が多く出てくれば、東京の様子は少しずつ変わってくるかもしれない。そうした未来を考える上でも、下北沢の再開発から学べることは多い。
都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家。チェーンストアやテーマパーク、都市再開発などの「現在の都市」をテーマとした記事・取材などを精力的に行う。「いま」からのアプローチだけでなく、「むかし」も踏まえた都市の考察・批評に定評がある。著書に『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』他。現在、東洋経済オンラインや現代ビジネスなど、さまざまなメディア・雑誌にて記事・取材を手掛ける。講演やメディア露出も多く、メディア出演に「めざまし8」(フジテレビ)や「Abema Prime」(Abema TV)、「STEP ONE」(J-WAVE)がある。また、文芸評論家の三宅香帆とのポッドキャスト「こんな本、どうですか?」はMBSラジオポッドキャストにて配信されている。
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