12万足売れた「歩くぬか袋」 米農家の社長、“門前払い”から大ヒットの執念(2/5 ページ)

» 2025年03月25日 07時00分 公開

小学校の思い出から糸づくりまで 50年越しの挑戦

 米ぬか繊維の発想は、鈴木氏の50年以上前にさかのぼる小学生時代の記憶が原点だ。「私の家は農家です。大学生の頃、親から頼まれて精米すると出る米ぬかを廃棄していましたが、もったいないという思いがありました」と鈴木氏。そんな時に思い出したのが、小学2年生頃の経験だ。「学校の廊下を親に作ってもらったぬか袋で拭くと、廊下がツルツル、ピカピカに光るんですよ」と当時を振り返る。

稲刈りをする社長

 1958年、鈴木氏が生まれた年に父親が子供用靴下の会社を創業。大学卒業後は家業を継いだ。25歳頃には「米ぬかで靴下を作れば足がすべすべするのでは」と糸の商社に相談したが、相手にされなかった。

創業当時の工場ライン

 それから約20年の時がたった45歳の頃、「自分で手作りでも始めてみよう」と決意。鍋で米ぬかと靴下を煮込む素人実験は失敗続きだったが、地元の商工会を通じて紹介された和歌山県工業技術センターの谷口久次氏(当時、化学技術部長)との出会いが転機となる。同氏の指導で米ぬか成分の抽出方法を習得し、手作りの試作品が完成。使用者にアンケートを取ると、「足がすべすべする」という反応があった一方、「洗えば効果が落ちる」という課題も判明した。

手作りのアンケート

 こうした課題を克服するためには、手作りでは限界があると感じた鈴木氏。そこで大阪の紡績会社オーミケンシを訪ねた。「なぜ米ぬかなのか?」など、熱心に質問されたが、鈴木氏の農家としての経験に共感した開発部長は協力を約束。米ぬか成分を練り込んだレーヨンを開発し、これを30%、綿を70%で混ぜた特殊な糸が完成した。

「歩くぬか袋」着用イメージまであと5枚

 念願の糸ができ上がり、いよいよ靴下の製品化に成功。しかし、その後に待っていたのは、さらに厳しい販売の現実だった。

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