デビット・アーカーによれば、ブランド認知は「顧客がブランドを思い出せる・識別できる度合い」のことを指す。よーじやの手鏡ロゴは、何十年にもわたり日本のみならず海外の観光客にも周知されてきた。京都のみやげ店を思い浮かべたとき、瞬時に頭に浮かぶ数少ないアイコンの一つといえる。今回の変更によって、この「一瞬で分かる“よーじや”感」が薄まるリスクは否定できない。
一方で、企業メッセージとして「おみやげの店」から「おなじみの店」へ移行したいのであれば、観光客向けとは異なるユーザー層を取り込む必要がある。そのとき、新しいロゴやキャラクターを通じて“地元にも愛される企業”という認知を広げるチャンスになるとも考えられる。ブランド認知は既存のものを崩す危険性と、新たに構築する可能性の両刃である。
よーじやと聞けば、「油とり紙」「京都観光」「和風の可愛らしさ」「老舗の安心感」といった連想が多くの人に浮かぶだろう。ケラーはブランド連想を「消費者がブランドに対して抱くイメージの全て」とし、そのポジティブな連想を失わずに新しい価値を付加できるかどうかが、ブランド強化のポイントだと説いている。
よーじやのプレスリリースでは、「新しいよじこデザインの文房具や雑貨アイテムの発売」をはじめ、キャラクターを積極的に展開していくと明言している。しかしファンから見ると、いわゆる“あの鏡に映った京美人”が持つ格式や風情はどうなるのか――という疑問がつきまとう。今回の刷新では、あぶらとり紙を中心とした既存の商品や紙袋、店頭サインなどでは従来の鏡ロゴを「引き続き大切に使用」するとのことで、よーじやの公式Xでも次のような言及がある。
「手鏡に映る女性のデザインはなくなるわけではなく、あぶらとり紙などで引き続き大切に使用いたします」
このように、完全撤廃ではなく“使い分け”というスタンスを採っている点は、ブランド連想の根幹を守る施策ともいえる。ただし、実際に顧客が店舗や商品に触れたとき、どのように従来ロゴと新ロゴ(あるいはキャラクター)を使い分けているのかは、混乱が生じないよう周到なデザイン設計が求められる。
京都の老舗として確立されたブランドは、長年のファンを多く抱える。ロゴの変更は、ファンの心理的抵抗を招きやすい代表的な施策である。アーカーも「ブランド・ロイヤルティーの高い顧客は変化を嫌う傾向がある」と指摘しており、実際SNSでも「ロゴは変えないでほしかった」という声が少なくない。
しかし、ロイヤルティーの高いファンが必ずしも変更そのものに反対とは限らない。むしろ「京都や地元に貢献したい」「伝統と革新を両立させたい」という企業の真摯(しんし)な思いが明確に伝われば、「新しい挑戦を応援したい」というポジティブな動機に変わる可能性もある。これには企業と顧客のコミュニケーションが不可欠である。
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