妊娠が分かってから出産・育児開始までに数カ月の準備期間がある育児と比較し、介護は予期せぬときに突然始まることがある。高齢者の場合は転倒事故などをきっかけに状態が急激に悪化することがあるし、ゆっくりと進行する場合も、離れて暮らしていて状況が分からず、気付いたときには要介護度が高まっていたということもある。
そんな急な事態に備え、石田さんは「元気なうちに家族で話し合っておくことが重要。親がどのように生きていきたいのか、どのような最後を迎えたいのかについて、自然な形で話し合っておくのが望ましい」と強調する。
企業としては、社員に情報提供することで、家族間の話し合いや準備がうまくいくよう間接的にサポートすることになる。石田さんは、提供すべき情報として重要な2つを挙げる。
「一つは介護保険制度についての基礎知識です。例えば、どういう状況であれば介護サービスが受けられるのか、介護が必要になった際にどういう形で準備を始めればよいのか、といったことです」
「もう一つは、家族介護の準備としてすべきことを具体的に示すということです。例えば、もしご両親の介護や医療が必要になったらどういう形を望むのかをご本人たちに確認しておくこと、それに対してご両親の資産状況やその地域の医療・介護の資源の有無について確認しておくことが重要です」
企業の対応状況について石田さんは、企業規模によって3つの類型を示した。
「1つ目は大企業で、人的資本経営、健康経営、ダイバーシティー経営などを推進するなかで、今はまだ十分とは言えないものの、介護支援も時間とともに充実していくと考えられます」
「2つ目は中堅企業で、人事制度が古いままアップデートされていません。公平性を重視する制度設計になっていることが多く、イレギュラー対応が難しい状況にあります。仕事と介護の両立支援を念頭に置いた制度設計をしていくことと、中間管理職の意識改革が求められます」
「3つ目は小規模な企業で、社長の身近に仕事と介護を両立している人がいて危機感を持っていれば個別対応が進んでいますが、そうでない場合は全く対応がされていないという二極化した状態にあります。40〜50代の事業部長や管理職クラスの方が介護離職してしまった場合のリスクを認識し、経営の危機と捉えて対応する必要があります」
石田さんによれば、どの規模の企業にも共通して見られる課題が「介護の問題がネガティブに捉えられてしまう」ということだという。
効果的な対策を打つためには、社員が介護に関わっているか、今後その可能性があるかといった実態を把握する必要がある。しかし、そのためのアンケートやヒアリングを行っても、社員が正直に回答しないことが多くあるというのだ。
背後には、介護は家族の問題と考える人が多く、仕事と介護の両立支援への理解が高まっていないという現実がある。特に就職氷河期世代として苦労してきた現在の40〜50代は、キャリアにマイナスになりそうなことを隠してしまいがちで、余計に実態を見えづらくしているようだ。
こうした状況を変えるには、仕事と介護の両立支援を本気でやるというトップのコミットメントが不可欠だ。その姿勢が伝われば、制度設計や具体的サポートを行う人事担当者や管理職も動きやすくなるし、社員は安心して制度を利用できるようになるだろう。
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