氷河期世代に直撃 「働きながら介護」が企業を揺るがす大問題になりゆくワケ“家族の問題”ではない(1/3 ページ)

» 2025年05月01日 07時00分 公開
[やつづかえりITmedia]

 働きながら家族の介護をする「ビジネスケアラー」が増加している。推計では、2030年には833万人の国民が家族の介護を担い、その内の約4割が仕事をしながらの介護になるという。企業にとっては、両立困難による離職者が出ることはもちろん、介護の負担に伴う労働生産性の低下も課題で、現状のままでは2030年時点の経済損失額が約9兆円に上る見込みだ。

家族介護者と、ビジネスケアラー、介護離職者の推移(出典:経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」)
2030年における経済損失の推計(出典:経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」)

 プライベートの問題とされてきた介護が、なぜ企業や働く個人のリスクとして浮上してきたのか。ビジネスケアラーの課題を概観し、それを乗り越えるためにすべきことを、専門家のアドバイスや企業の取組事例も踏まえて考えてみよう。

経済損失「9兆円」 企業の中核人材が介護に直面する時代がやってくる

 約9兆円の経済損失という推計をはじき出したのは、経産省から委託を受けた日本総合研究所(以下、日本総研)だ。同社が特に注目するのは、ビジネスケアラーの年齢である。家族の介護を行う人のボリュームゾーンは、2030年では45〜49歳が171万人で最も多くなり、この年代の約17.9%、およそ6人に1人が介護を担うことになると見込まれるからだ。

 40代後半のビジネスパーソンは、管理職や熟練者として事業の中核を担う存在であることが多い。彼らが介護離職したり、介護との両立が困難でパフォーマンスを低下させたりすれば、企業にとっての痛手は大きい。社員の方も、定年まではまだまだ時間がある段階で第一線を離れるとなれば、その後の人生設計が狂いかねない。

介護問題の“予防”重視する企業は少ない

 企業によるビジネスケアラーの支援に大きな影響を与える育児・介護休業法が、2024年に改正され、この4月に施行された。

 そこで義務化されたことの一つに、「社員が介護に直面する前の“早い段階”に、介護休業と介護両立支援制度などに関する情報を提供する」というものがある。

 “早い段階”として具体的に示されているのが、社員が40歳になる年度または40歳になって1年以内というタイミングだ。40歳代後半に家族介護を行う者が増えることを見越し、その前の段階で制度について伝え、必要となったときにきちんと活用できる状態にしておこうという意図だろう。

 日本総研で介護・医療関連の政策提言やコンサルティングに従事する石田遥太郎さん(リサーチ・コンサルティング部門 高齢者イノベーショングループ シニアマネージャー)は、「社員が介護を担当するようになり介護離職一歩手前の状態になってしまったら、企業ができることは休暇を許可するくらいしかない。そうならないために、社員に介護の準備を促すタイミングは早ければ早いほど良い」と語る。

 しかし、2024年7月にマイナビが行った調査によると、企業の人事・労務担当者で「介護休暇・介護休業の取得の流れを社内に周知している」と回答したのは41.9%にとどまる。

 また、ビジネスケアラーへの支援を促進するきっかけとしては「介護を行う社員が増えた場合」が43.0%で最多、次いで「従業員ニーズが高ければ」(35.8%)、「介護離職が増えた場合」(31.9%)となっており、社員の介護が始まってから対応すれば良いという意識がうかがえる。

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