トップが明確なコミットメントを示している事例としては、例えば大成建設がある。社内報を利用してトップのメッセージを発信し、有価証券報告書に介護との両立も含む多様な働き方を推進することが事業の成長と企業価値向上につながるという考え方を明記するなど、社内外に積極的な支援の姿勢を伝えている。
また、アフラックでは社長が委員長を務め、11人の役員からなるダイバーシティ&インクルージョン推進委員会で仕事と介護の両立支援も推進している。
石田さんによれば、優秀なマネジャーであっても「介護はプライベートな問題だから触れない方が良い」と考える人は少なくないという。それでは社員も相談しづらくなってしまうため、上長向けの教育研修も必要だ。
例えば大成建設では、上司向け研修の中で介護に関する情報提供も行った上で、部下との定期面談では介護に関しても話し合うこととしている。東京ガスでは、部下から介護の相談があったときの対応についてのロールプレイングを行うなど、実践的な研修が行われている。
さらにハウス食品グループでは、人事部門が介護に関する相談窓口となり、介護を抱える社員と上司との面談に人事部門の担当者も同席する。これにより、会社の制度を熟知する立場からのより適切なアドバイスが期待できる。
一方、介護の問題は家族の希望や居住地域などによって対応内容が異なり、プライベートな領域が多い。介護の内容や自治体のサービスなどに関わる問題については、外部の専門機関の相談窓口を利用できるようにする、専門家を招いて研修を行うなど、社外のリソースも適切に利用することが望ましいだろう。
取り組みが進み、介護を担う社員の存在が見えてきたら、当事者同士がつながる仕組みを作るのもよいだろう。アフラックでは仕事と介護を両立する社員のコミュニティを運営し、悩みや不安を共有できる場をつくっている。介護未経験者も参加できる場があれば、必要な準備の意識付けや、両立を支援する雰囲気づくりにも寄与するはずだ。
石田さんは、「社員同士であってもいきなりプライベートな話をしてもらうのは難しい。やはり順序が大切で、まずは経営者のコミットメントがあり、両立を支援する組織風土が醸成され、その中で実態把握が可能になる。実態を把握した上でさまざまな施策を検討して、両立支援の制度づくりや理解促進のための研修などを進めていく。そういった順番で進めていくべき」とアドバイスする。
仕事と育児の両立支援と比べ、ビジネスケアラーの支援体制はまだまだこれからという段階だ。
加えて、「介護はプライベートな問題」という意識や、介護の担い手が娘や嫁など女性に偏る傾向もいまだ根強い。せっかく増えてきた女性管理職が介護の問題で辞めてしまうといったことが、これから増えてしまうかもしれない。
育児については、母親だけで抱えるべき問題ではないという意識が、長年かけて醸成されてきた。介護についても、当事者だけでなく周囲の人々も含めた意識の変革が必要だ。
しかし、あと5年すれば団塊の世代は80代であり、あまり時間をかける余裕はない。
企業には、ビジネスケアラーの増加は経営問題に直結するという危機感をもって先手を打つことが求められる。国や自治体には、介護は身近な家族だけでなく社会全体の問題だという共通理解を、介護を受ける側になる高齢者も含めて広く周知し、実効性のある制度を整えていくことを期待したい。
コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立。2013年より組織に所属する個人の新しい働き方、暮らし方の取材を開始。『くらしと仕事』編集長(2016〜2018)。「Yahoo!ニュース エキスパート」オーサー。各種Webメディアで働き方、組織、イノベーションなどをテーマとした記事を執筆中。著書に『本気で社員を幸せにする会社』(2019年、日本実業出版社)。
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