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万博で「未来からのSOS」に応答──日立とKDDIが組んだ“体験型ブース”の狙いは

» 2025年05月21日 05時00分 公開
[河嶌太郎ITmedia]

 4月13日に開幕した大阪・関西万博。前評判を覆すような形で、初週から多くの来場者で賑わいを見せている。開幕から4月19日までの1週間で累計来場者数は52万4937人に達し、特に開幕日の4月13日には12万4339人が会場を訪れた。これは2005年の愛・地球博(愛知万博)の同期間の約42万6000人と比較して約10万人多い数字となっている。

主に子どもを対象とした体験型展示の「Mirai Arcade」

 この盛況ぶりの背景には、NTTグループや三菱グループ、住友グループやパナソニックグループなど日本企業の出展がある。いずれも近未来の日本や世界がどう変わっていくのかを展示する内容だ。バンダイナムコグループが出展する「GUNDAM NEXT FUTURE PAVILION」(ガンダムパビリオン)も、『機動戦士ガンダム』の世界観を通じ、いかに未来の暮らしが現実のものとなっていくかがテーマとなっている。

 日立製作所やKDDI、IHIや川崎重工業や神戸製鋼、商船三井や関西電力送配電やクボタなど、日本を代表する企業・団体12者が出展する万博最大級の展示がある。会場西側に位置する「未来の都市」パビリオンだ。現地に赴いた記者が詳報する。

「Society 5.0と未来の都市」は、日立とKDDIが協働して展示している

日立、KDDI、クボタ 12者が訴求する万博最大規模の展示

 「未来の都市」パビリオンは、全長約150メートル、施設面積は約4800平方メートル、展示面積は約3300平方メートルという、万博でも最大級の規模を誇る展示だ。「幸せの都市へ」をテーマに掲げ、Society 5.0の実現を目指し、経済発展と社会課題の解決を両立する未来社会の姿を、多彩な展示やアトラクションで体験できる。

 パビリオン内は「Society 5.0と未来の都市」「環境・エネルギー」「交通・モビリティ」「ものづくり・まちづくり」「食と農」の5分野で構成。各分野で、展示を担当する企業が異なっている。「Society 5.0と未来の都市」は日立製作所とKDDI。「環境・エネルギー」が日本特殊陶業、日立造船、IHI。「交通・モビリティ」が川崎重工、商船三井、関西電力送配電。「ものづくり・まちづくり」が神戸製鋼所、青木あすなろ建設・コマツ、CPコンクリートコンソーシアム。そして「食と農」をクボタが担当している。

 例えば最先端の水素技術や自動運転、スマート農業、カーボンニュートラルを実現するインフラなど、社会課題の解決に直結する技術を紹介している。各分野で各社が自社の強みを生かした展示をした形だ。日本の大企業が世界から訪れる来場者に向け、日本や世界が今後どのような未来になっていくか、体験型展示によって訴求する内容となっている。

参加者の選択によって未来を変える体験ができる「Mirai Theater」

日立とKDDIが協働したSociety 5.0と未来の都市

 5分野にわたる展示のうち、最大の展示面積を持つのが筆頭にも挙がる「Society 5.0と未来の都市」だ。日立とKDDIがタッグを組む形で実現した展示はどのようなものなのか。 「Society 5.0と未来の都市」をテーマとした展示「Mirai Meeting」は、「Mirai Theater」と「Mirai Arcade」の2つのパートに分かれている。「Mirai Arcade」は、主に子どもを対象とした体験型展示で、都市の社会問題などを解決に導く、協力型シューティングゲームとなっている。

 例えば、エネルギーの効率的な使い方や、災害時の避難行動、交通の最適化など、現実の社会課題を遊びながら学べる内容となっている。自分の行動が都市全体にどんな影響を与えるのか体感できるようにした。

 「Mirai Theater」は、来場者120人が一度に入場して「一人ひとりの選択によって未来を変えられる」という体験ができるユニークな展示だ。待機場所では、来場者のスマートフォンを使用して、このあと体験できる内容の趣旨を説明する。

 来場者は自分のスマートフォンを使い、提示される未来の課題に対する解決策を、その場で選択する参加型の体験ができる。会場で案内されるQRコードなどからWebブラウザを通じ参加する仕組みで、専用アプリのインストールは不要だ。

 映像は2035年の未来都市を舞台にしたもので、来場者は「未来に住む子ども」からのSOSを受け取り、司会を兼ねるナビゲーターと共に課題や選択肢を考える。映像の途中で2回、3択の選択肢が登場し、参加者は自身のスマートフォンで選択肢に対して投票する。その集計結果によって、シアター内の大画面に映し出される都市の未来像がリアルタイムで変化する仕掛けだ。選択によって都市の未来がどう変化するのか、その結果が大画面に映し出され、まさに「自分ごと」として未来の都市づくりに参加できる。

 このサイバー空間と実世界の空間を高度に連携させるシステムは、「サイバーフィジカルシステム」と呼ばれるもので 、個人の意思決定が社会全体に与える影響を、実感できる構成が特徴だ。この体験は、「バーチャル未来の都市」としてメタバース上に構築しており、会場外からもバーチャル空間上で参加できる。

司会を兼ねるナビゲーターと共に、課題や選択肢を考えていく

Society 5.0の実現に向けて描く参加型社会

 なぜ、このような展示に至ったのか。展示を担当したKDDIの先端技術研究本部の菅野勝シニアエキスパートは、「『未来は自分たちで変えられる』というのが今回の展示の大きなコンセプト」と話す。

 「仮想空間と現実空間を組み合わせたSociety 5.0の世界は、参加型社会、つまり市民一人ひとりが主体的に社会づくりに関わる社会だと考えています。今回の展示では、来場者自身が自分の選択によって未来を変えていく体験をしてほしいと思い、サイバー空間上でさまざまなシミュレーションを重ねながら、よりよい未来を自ら選択していく仕組みを取り入れました」(菅野シニアエキスパート)

 日立製作所研究開発グループ未来社会プロジェクトの沖田英樹サブリーダーも、「日本が抱える高齢化などの社会課題を日本や海外からの来場者に訴えたかった」と話す。

 「未来社会の課題を考える際には、私たち自身が一つ一つの生活シーンを丁寧に見つめ直し、デジタル技術がどのように未来社会をより良くしていけるのかを探ることが重要だと考えています。そのためには、日立やKDDIの技術や製品だけでなく、さまざまなパートナーや多様な知見を持ち寄り、共創によって課題解決に取り組む姿勢が不可欠だと考えました」(沖田サブリーダー)

 KDDIの菅野シニアエキスパートは、2035年という近い未来を舞台にした理由も話す。

 「2050年のような遠い将来よりも、10年後の2035年なら現在の技術や社会動向を踏まえて、現実味を持って参加者に訴求できると思いました。KDDIが持つ5Gやデジタル技術と、日立の持つ社会インフラやプロダクト開発の知見を組み合わせることで、実現可能な未来像を具体的に体験できます」

タブレットやスマートフォン端末を使用して来場者が未来の選択ができる

日本発の社会課題解決 世界へどう展開するか

 Mirai Theaterでは、高齢化問題に限らず、未来の食と健康や、未来の学びと仕事など、われわれの10年後の生活がどのように変化しているのかを扱う。少子高齢化の問題は一見、日本特有の課題のようにも捉えられがちだ。インバウンドには、どのように発信するのか。

 「Mirai Theaterでは特に高齢者の方がいきいきとした形で暮らしていける社会を訴えました。この日本で高齢者が増えている描写から、海外の方々にも先進事例として、自分の国や地域でも自分事の課題だと訴えたい狙いがあります」

 この日本発の社会課題をグローバルに訴求する考え方は、国の方針とも一致している。経済産業省のSociety 5.0に関する2019年の資料には、「深刻な課題を多く抱える日本は、課題解決先進国となることができる」「少子化・高齢化、地方衰退、財政悪化、エネルギー問題等、日本が抱える社会課題を解決するモデルを世界に提示し、国際標準化をリードすべき」と明記されている。

 Society 5.0の理念や実践を日本国内だけでなく、国際社会に向けて発信し、世界共通の課題として共有・展開していくことが、日本の役割だと位置付けているわけだ。Society 5.0実現に向けた日本発の社会課題解決が、グローバルに展開できるのか。2035年に向けた取り組みが試されている。

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