「SBIグループの5442万人の顧客基盤(口座数や各グループ企業の顧客数の合計)とドコモの1億485万契約。両方合わせれば相当大きな顧客基盤が作れる」。SBIホールディングスの北尾会長は、統合による規模のメリットを強調した。
期待されるシナジーは主に4つある。
第一に、顧客基盤の飛躍的拡大だ。ドコモの持つデジタル・リアルの顧客接点を活用し、住信SBIネット銀行の口座獲得を加速させる。dポイント還元との連携により、同行をメインバンクとして利用する顧客の増加も見込む。
第二に、住宅ローン市場での競争力強化である。ドコモグループのサービスと連携した金利優遇商品など、差別化された商品開発が可能になる。住信SBIネット銀行は既に年間実行額で国内トップシェアを誇るが、dポイントとの連携でさらなる成長が期待される。
第三に、BaaS(Banking as a Service)事業の拡大だ。住信SBIネット銀行の円山法昭社長は「NTTドコモの法人ネットワークを活用した新たなパートナー先の開拓ができる」と期待を示した。同行の成長エンジンである「NEOBANK」事業は、現在新規顧客獲得の7割を占めており、NTTグループの法人顧客網との相乗効果は大きい。
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第四に、データ活用による新サービスの創出である。前田社長は「銀行、決済、証券のデータを組み合わせ、顧客理解を深める」と説明。顧客一人一人に最適化された金融サービスの提供が可能になる。
住信SBIネット銀行の円山社長も「クレジットカードやポイント事業など、われわれが持っていない機能を手に入れることができる」と述べ、相互補完関係の強さを強調した。
今回の案件は、単なる銀行買収にとどまらない。NTTとSBIホールディングスの包括的な資本業務提携は、通信と金融の垣根を越えた新たなビジネスモデルの創出を狙う。
協業は金融分野に限らない。資産運用、セキュリティトークン、保険分野での新サービス創造に加え、NTTデータによるSBIグループ各社の金融システム開発・保守での連携も進める。さらに、再生可能エネルギーやWeb3など、両グループが注力する分野での協業も視野に入れる。
北尾会長は特にNTTの次世代ネットワーク技術「IOWN」の光電融合技術に強い関心を示した。「証券取引の遅延を最小限にし、エネルギー使用も削減できる可能性がある」と述べ、SBIが運営する私設取引システム(PTS)への応用に期待を寄せた。
一方で、既存の提携関係への配慮も忘れない。ドコモが保有するマネックス証券との関係について、北尾会長は「どちらの証券会社を使うかは顧客が決めること。公正公平に、顧客が判断できる状況を作る」と説明。前田社長も「SBI証券を利用する住信SBIネット銀行の顧客が不便になることはあり得ない」と強調した。
通信料金収入に依存する事業構造から、金融サービスを第二の柱とする事業ポートフォリオへの転換。それがドコモの描く成長戦略である。
今回の買収と資本業務提携は、その実現に向けた大きな一歩となる。業界の垣根を越えた両グループの挑戦が、日本の金融サービスにどのような革新をもたらすか。その成果が注目される。
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