「いや、オレはいいと思うけれど、部長がこういうのすごく嫌いだから現実問題として難しいんじゃないかな」
「これちゃんと役員に話通してる? そういう段取りを重視しないで進めるのは専務すごく怒るよ」
「そんなのたまたまでしょ」と思うかもしれないが、そんなことはない。「権威を持ち出して改革をつぶす」という行動は、日本人労働者の「気質」が生み出す、極めて基本的な組織病理である。
オランダに本社を置く大手人材サービス企業のランスタッドが2022年、世界34カ国3万5000人を対象に労働者意識を調べたところ、実は日本人ほど「現状維持志向」が強い労働者はいないことが分かった。
世界の労働者のうち、40%が強い成長意欲を持っているのに対し、日本の労働者で現在の雇用先でのキャリアアップを望んでいる人は29%しかいなかった。この数字は、調査対象となった34の国と地域の中で最も低かったという。その他の調査結果も踏まえて、日本人労働者のこんな傾向を指摘している。
「日本は社会貢献よりも収入を重視する点がありながらも、雇用先でのキャリアアップは望まれておらず、現状の生活を維持するために働く労働者が多い」(ランスタッド プレスリリース 2022年5月26日)
日本には世のため人のため、出世のためでもなく、「今の生活をキープするため」に働いている人が圧倒的に多いということだ。では、こうした現状維持志向が極めて強い人々が、組織の中でベテランや管理職といった立場になったら、どのような人物になるかを想像していただきたい。
「今の生活をキープする」ためには、そのための収入や役職を約束してくれる「今の組織」もキープしなくてはいけない。組織改革などされたら、これまでの収入や役職が脅かされてしまうからだ。
ここまで読めばお分かりいただけるだろう。これこそが「現状維持おじさん」の根本的な行動原理である。
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