「自ら稼ぐ」という観点で、宮古島観光協会が大きな成果を上げているのが、ふるさと納税事業の運営である。2023年度の個人版ふるさと納税額は12億6813万円、2024年度は11億8336万円と下がったものの、寄付件数は前年度比26.1%増の1万4627件で過去最高となった。
「2021年に事業の委託を受けた当初、返礼品を提供するのは50事業者程度でしたが、現在は200事業者を超えています。寄付額も5億円から12億円と倍以上の成長を遂げました」
特に注目すべきは、個人事業者への支援体制である。
「おじい、おばあ一人ではできない複雑な手続きを、私たちが全て代行します。生産に専念してもらい、商品ができたら連絡をもらう。梱包用ダンボールに宛名シールも貼って、宅配便が来たら出すだけの仕組みを作っています」
ふるさと納税の活発化は、オーバーツーリズム対策としても機能している。実際に来島しなくても宮古島の魅力を返礼品で体験でき、将来的な来島につながるファン作りの効果があるからだ。
「来島せずに宮古島の良いものを求めてくれるファンが増えれば、最終的には観光客を選べるようになります。質の高い観光客に来てもらう基盤作りになっています」
宮古島市の財源確保の手段として、宿泊税導入の議論も進んでいる。川満氏は、観光客にとって宿泊税は既に一般的な制度であり、理解を得られやすいと考えている。
「京都や大阪でも宿泊税が導入されています。観光客は既にこうした税金に慣れており、大きな反対はないでしょう」
川満氏が描く理想的な宮古島観光の姿は、量的拡大から質的向上への転換である。
「観光客数を追いかける必要はありません。最終的には、エコに興味があり、宮古島を大事にしてくれる観光客を選びたい。『美しい海を皆で守っているんだ』というメッセージを発信し続けることで、環境意識の高い観光客が自然に集まるようになるでしょう」
この実現のためには、観光客だけでなく住民の意識改革も不可欠だ。
「島民の中にもゴミをポイ捨てしている人はいますから、地元の意識も変えていく必要があります。観光客と住民が一体となって宮古島の美しい環境を守る文化を作りたい」
宮古観光協会の取り組みの根底にあるのは、「島民の幸せなくして、島の発展なし」という理念である。
「(吉井良介)会長がいつも言っているのは、『宮古島の市民が幸せにならない限り、私たちの存在意義がない』ということです。しっかりと稼げる仕組みを作り、自分たちを守りながら地域に貢献していく必要があります」
登録DMO、地産地消推進、ふるさと納税活用、宿泊税導入など、多角的なアプローチを通じて、持続可能な観光地域づくりを目指している。
観光ブームに沸く他の地域にとっても、宮古島の経験は貴重な示唆を提供するだろう。量的成長の追求から質的向上への転換、そして地域住民の幸福を最優先とした観光政策の確立。これこそが、真の意味での観光立地域の姿なのかもしれない。
「離島でのモデルケースを作り、成功事例として他の地域にも参考にしてもらえれば、皆が潤う世界ができるのではないでしょうか」
川満氏の言葉は、宮古島の挑戦が単なる地域活性化を超えて、日本の観光業界全体への問題提起でもあるのだ。
(前編を読む)
宮古島“観光バブル”の代償──倍増した家賃、住めなくなる地元民……変わりゆく現実
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