株式会社博報堂 エクスペリエンスクリエイティブ局 クリエイティブビジネスプロデューサー
生活者価値起点の顧客体験をデザインする博報堂のクリエイティブチーム「HAKUHODO CX FORCE」のメンバーが、「企業活動とCXの掛け算」をテーマにお届けする本連載。第2回は、体験がブランドの競争力になる時代、CX視点のEX設計が求められる理由と有効なアプローチについて、「CX視点のEX設計」業務に多く取り組む、武藤重近が解説します。
皆さんは、日々の業務の中で「顧客体験」(Customer Experience、以下CX)をどのように捉えていますか?
昨今、商品やサービスの違いだけでは選ばれにくい“コモディティ化”の時代において、「なぜこのブランドを選ぶのか?」という問いへの答えは、性能や価格だけでなく、そのブランドを通じて得られる“体験”に重きが置かれるようになってきました。
そして、その“選ばれる体験”を作り出しているのは、まさに現場で日々工夫を重ね、顧客と向き合っている一人一人の社員の皆さんです。そうした皆さんの思いや発想が、ブランドの価値を形作っているのです。
だからこそ、CXの質をさらに高めていくには、現場の創意を引き出し、生かすための「働く環境やプロセスの在り方」──つまりCX視点で設計されたEX(Employee Experience、従業員体験)が不可欠だと考えています。
本稿では、CXの実現を支える“働き方のデザイン”について、その考え方と実践のヒントをご紹介していきます。
冒頭の繰り返しにはなりますが、“選ばれる体験”を生み出すうえで、最も大きな役割を果たしているのは、他でもない、日々現場でお客さまと向き合い、業務を遂行されている社員の皆さんです。その一人一人の発想や行動が、ブランドとしての印象や信頼につながっていきます。
顧客にとって価値ある体験(CX)を継続的に届けていくためには、社員の皆さん自身が「顧客の視点」を自然に思考に取り入れ、行動に移せるような職場環境や発想の土壌を整えること──すなわちCX発想によるEX設計が非常に重要になります。
本章ではまず、CXを支える発想を育むために必要な「3つの観点」についてご紹介します。
まず大切なのは、「お客さまがどんな場面でこの商品・サービスを使っているのか」「どんな意味づけで選んでいるのか」といった、体験全体の背景まで含めて理解することです。スペックや機能では語りきれない、生活者の文脈に寄り添った発想が、体験価値のクオリティーを大きく変えていきます。
CXは単発の施策や接点だけで完結するものではありません。ブランドとの出会いから利用、そして継続までが“つながった線”として顧客に届けられてこそ、印象的なブランド体験が形作られていきます。個々の接点やモーメントに対して、「この場面で何を伝えるべきだろうか?」「他の接点とどうつながっているだろうか?」といった問いを持つことが、一貫性のあるCX設計への第一歩となります。
社員の皆さんが自然と顧客の立場に立って考えられ、お互いの発想や意見を交わし、また再現できる環境が整っていることも大切なポイントです。ナレッジや成功事例の共有、発想のフレームワーク整備など、日々の取り組みを支える“仕組み”を作ることで、属人化せずに発想が広がり、組織全体でCXの質を高めていくことができます。
顧客にとって意味のあるブランド体験は、ある日突然どこかから降ってくるようなものではありません。あくまでも、社員の皆さんの日々の思考と行動の積み重ねから生まれるものなのです。
次章では、そうした発想をさらに支援するための有力な仕組みとして、「生成AI」に着目。どのように力を発揮できるのかをご紹介します。
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