Olive Infiniteが今のタイミングで登場する背景には、複数の市場要因が重なっている。最大の追い風は政府の「資産所得倍増プラン」による投資環境の激変だ。2024年から開始された新NISA制度により、個人の投資マネーが爆発的に拡大している。
金融庁の調査によると、2024年のNISA買付額は約17兆4000億円と、前年(約5兆2000億円)の3倍以上に急拡大した。政府が掲げた「資産所得倍増プラン」の目標(5年で累計56兆円)に手が届く勢いである。個人金融資産残高も2024年12月末時点で2230兆円と前年比86兆円増加し、投資信託市場は246兆円と前年から18%増となった。
デジタル化の浸透も重要な要因だ。コロナ禍を経て金融サービスのデジタル利用が一気に普及し、スマートフォンでの投資や資産管理が当たり前になった。特に20代から40代の現役世代では、デジタルツールを活用した資産形成への関心が急速に高まっている。
この市場への進出において大事なのが、SMBCグループが既にOliveで成功モデルを実証済みという点だ。2023年3月の開始から約2年で600万口座を突破し、SBI証券との連携による投資信託積立は年間1兆円規模に成長した。中島達SMBCグループCEOは「カード積立はわずか4年で三井住友銀行が約20年間かけて築き上げた積立残高に匹敵するスピードで成長している」と説明する。
この成功の要因は、従来の縦割り構造ではなく、顧客のニーズに基づいて銀行・証券・カードなどをシームレスに連携させるサービス設計にある。口座、カード決済、ファイナンス、ネット証券、オンライン保険などの機能を、顧客が必要に応じて自由に組み合わせて利用できる総合金融サービスとして提供したことが奏功した。
さらに、SBIグループとの戦略的パートナーシップも成熟期を迎えている。2020年4月の提携開始以来、SBI証券の口座獲得におけるアライアンス比率は50%近くに達し、SMBC三井住友銀行グループの金融商品仲介口座数は144万口座を超えた。北尾吉孝SBI会長は「まさにWin-Winの状況になっている」と評価する。
これらの要素が重なった結果、デジタル富裕層向けの本格的なプレミアムサービスを展開する絶好のタイミングが到来した。中島グループCEOは「スマホを通じた金融取引がさらに普及していくことを踏まえると、デジタル富裕層が継続的に増加していくことは間違いない」と今後の市場拡大に確信を示している。
Olive Infiniteの登場により、金融各社の対応が注目される。野村證券や大和証券といった大手総合証券は、これまで高齢富裕層を中心とした対面営業で優位性を保ってきたが、デジタル富裕層という新たな成長市場では既存モデルの限界が露呈している。
野村證券は口座数で2020年にSBI証券、2021年には楽天証券に相次いで抜かれ、現在は国内第3位に後退した。大和証券も「ハイブリッド型総合証券グループ」を掲げるが、具体的なデジタル富裕層戦略の具体化が急務となる。
一方、楽天証券やマネックス証券などの独立系ネット証券も対応を迫られる。これまで低コストを武器に成長してきたが、Olive Infiniteのような高付加価値サービスに対抗するには、専門的なコンサルティング機能の充実が不可欠だ。楽天証券は楽天経済圏、マネックス証券は暗号資産など、それぞれの強みを生かした差別化戦略の見直しが必要になる。
現在、SBI証券が1400万口座で業界最大手、楽天証券が1200万口座で続く構図だが、Olive Infiniteが成功すれば「銀行・証券・カード・IT」の境界線が入り混じった新たな競争軸が生まれる。金融機関単体での競争から、金融グループ全体での総合力勝負へとパラダイムシフトが進む可能性がある。
デジタル金融商品への展開も注目される。SBIグループが強みを持つ暗号資産やステーブルコインなどの次世代金融商品を、Oliveプラットフォーム上で展開する構想は、従来の投資信託や株式中心の市場に新たな選択肢をもたらす。
中島グループCEOは「今後のウェルスマネジメントビジネスではデジタル富裕層が大きなマーケットになる」と予測する。年収700万円以上の共働き夫婦が過去10年で2倍に増加し、将来的に準富裕層への到達を目指すこの層は、確実に拡大している市場である。
Olive Infiniteの成否は、従来の金融サービスでは満たされなかった「空白市場」の開拓がカギを握る。デジタル技術と人的専門性を融合した新たなサービスモデルが成功すれば、他の金融機関にとっても新たな成長機会となる。2026年春のサービス開始を皮切りに、デジタル富裕層を巡る新たな競争が始まることになる。
従業員の生成AI利用率90%超のリアル! いちばんやさしい生成AIのはじめかた
【開催期間】2025年7月9日(水)〜8月6日(水)
【視聴】無料
【視聴方法】こちらより事前登録
【概要】ディップでは、小さく生成AI導入を開始。今では全従業員のうち、月間90%超が利用する月もあるほどに浸透、新たに「AIエージェント」事業も立ち上げました。自社の実体験をもとに、“しくじりポイント”も交えながら「生成AIのいちばんやさしいはじめ方」を紹介します。
NTT・楽天・ソフトバンクが「金融三国志」開戦か──通信会社の新戦局、勝負の行方は?
ヤマダデンキ、JR東、高島屋も……各社が急速に「銀行サービス」を開始したワケ
三井住友カードとPayPay「対立から大連立へ」 キャッシュレス後半戦、決済データ起点のビジネス創出へ
三井住友銀行が「FA制度」導入 年間「5000件」を超える人事異動はどう変わる?
年間「8.7万時間」の削減 ソフトバンクの営業組織は、なぜ「AIに優しく」するのかCopyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング