沖縄県の伝統工芸の一つである「琉球紅型(びんがた)」に従事する職人の稼ぎを増やす。サトウキビのバガス(搾りかす)を活用して循環型のアパレル事業を立ち上げ、耐久性の高いコンクリートを製造する企業の事業展開を支援する――。こうした多角的な業務展開をしているのが、okicom(オキコム)だ。
沖縄本島中部の宜野湾市に本社を構え、企業・行政向けにシステム開発やデバイスの販売、ネットワークの構築などを手掛けてきた。近年は「沖縄DXプロジェクト」と銘打ち、社会課題の解決や持続可能な社会の実現に向けた新たな取り組みに次々と着手している。
仕掛け人は、2017年に入社した小渡晋治副社長だ。同社の「IT企業」という枠を飛び出した新たな挑戦はITエンジニアを中心に広く共感を呼び、採用面で大きな効果を挙げているという。そもそも沖縄DXプロジェクトとはどのような取り組みなのか、そして次々に新事業を生む発想力の根源は何なのか。小渡副社長に話を聞いた。
社内で事業領域を整理するために「沖縄DXプロジェクト」という名前を掲げたのは2023年のことだが、もともと同社の社是は「おもしろいことへのチャレンジ」。趣味でドローンを触っていた社員の発案で、漁業組合と連携して海中で養殖する沖縄特産のモズクを空撮し、収穫予測をする事業を立ち上げたり、プロジェクションマッピングやイルミネーションを請け負うLED・省エネ・再エネ事業を展開したりするなど、これまでも独特な取り組みが多かった。
IT技術と課題解決のノウハウを生かし、地域創生やサステナビリティの側面がより強まったのは、2017年に小渡氏が入社した頃からだ。小渡氏がまず着手したのが、琉球紅型の価値向上や職人の収入増を通して産業を発展、伝承していく取り組みである。2019年に一般社団法人琉球びんがた普及伝承コンソーシアムを立ち上げ、自ら事務局長に就いた。
琉球紅型の最大の特徴は、繊維に染み込ませて色を表現する「染料」ではなく、溶媒に溶けない「顔料」で染色していること。絵画のように、専用の筆で顔料を織物の上に乗せた状態で色を表現しているため、色の階調をハッキリと表現できる。経年劣化がしづらい利点もある。職人たちは、今も全ての工程を手作業で行なっており、脈々と技法を継承している。
ただ、約700年にも及ぶ琉球紅型の歴史は決して平坦なものではなかった。小渡氏が説明する。
「紅型には1879年の琉球処分、第2次世界大戦という大きな消滅の危機が二度ありました。職人たちは風呂敷などの民間需要を開拓したり、戦後の物が限られている中で工夫を重ねて復興したりして、危機を乗り越えてきました。したたかさや力強さといった沖縄らしい精神性が見て取れる工芸品です」
紅型は独特な技法や厚みのあるストーリーを含めて人気が高く、後継者にもある程度恵まれている。その一方で、課題もある。例えば、職人の収入だ。
職人は主に問屋から依頼を受けた呉服や帯などを染めて「染賃」を受け取る。ただ、手作業で量産はできないため、収入が総じて低い。観光土産のパッケージなどでは紅型らしい柄がデザインされることも多いが、著作権のないパブリックドメインの古典柄を利用することがほとんどなため、職人に柄の使用料が入ることはない。
地域の体験教室で講師を務めても職人に支払われるのは数千円程度という場合もあり、熟練の技術という価値を適正に評価する土壌が育まれていないのが現状だ。
こういった「稼ぎにくさ」という課題を解決する一助として立ち上げたのが、琉球びんがた普及伝承コンソーシアムである。
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