CxO Insights

オリックスG→ドコモGへ ドコモ・ファイナンス社長が語る「社名変更の舞台裏」

» 2025年07月18日 08時30分 公開
[武田信晃ITmedia]

【注目】ITmedia デジタル戦略EXPO 2025夏 開催決定!

従業員の生成AI利用率90%超のリアル! いちばんやさしい生成AIのはじめかた

【開催期間】2025年7月9日(水)〜8月6日(水)

【視聴】無料

【視聴方法】こちらより事前登録

【概要】ディップでは、小さく生成AI導入を開始。今では全従業員のうち、月間90%超が利用する月もあるほどに浸透、新たに「AIエージェント」事業も立ち上げました。自社の実体験をもとに、“しくじりポイント”も交えながら「生成AIのいちばんやさしいはじめ方」を紹介します。

 消費者金融企業のドコモ・ファイナンス(旧オリックス・クレジット)は2024年3月、NTTドコモの連結子会社となり、2025年4月に「ドコモ・ファイナンス」に社名を変更した。社名や商品名の変更によってNTTドコモグループとの一体感や親和性を醸成することなどが目的だ。

 消費者向け無担保ローンビジネスは、従来の消費者金融企業のみならず、最近は銀行も参入していて競争は厳しい。そんな中、ドコモ・ファイナンスは、新たな活路を求めてオリックスグループからNTTドコモグループに入った経緯がある。

 ドコモ・ファイナンスの岡田靖社長に、社名変更の舞台裏と、今後の展望を聞いた。

岡田靖(おかだ・やすし) ドコモ・ファイナンス代表取締役社長・ドコモ・ファイナンス債権回収 取締役。専修大学卒業後、1993年4月にオリックス・クレジット(現ドコモ・ファイナンス)入社。営業部長、経営企画部長を経て2021年に代表取締役社長に就任

ドコモ経済圏に入るメリットは? 顧客獲得にかかるコストはどうなる

 ドコモ・ファイナンスは、個人向けの「ローン事業」「住宅ローン」、金融機関が個人の顧客に貸付をする際に、当該貸付の保証をする「信用保証事業」の3つを手掛けてきた。

 「ローン事業」は、2010年に貸金業法が改正され、借入残高が年収の3分の1を超えている者については、新規の貸付けを停止するという制限が加わることに。ビジネス環境が厳しくなったことや新型コロナウイルスを契機とした消費者行動の変化などを背景にして、ドコモグループとの提携につながったという。

 「キャッシュレスの普及やデジタルの急速な発展によって、消費者の行動が変化しました。スマホさえあればエンタメやショッピング、決済、融資に至るまで、あらゆるサービスが利用できる時代になったわけです。エコシステムや経済圏の重要性が増す中で、既存事業の成長と新たなサービスの展開を見据えて、経済圏などの顧客基盤を持つ企業との協業を模索していました。その際に、NTTドコモとのご縁があり、今回の資本業務提携に至りました」

 ドコモの経済圏には、約1億人の会員数を誇るdポイントがある。ドコモの経済圏に入ったほうが、企業として成長する可能性が高いと岡田社長は判断した。「5年先、10年先を考えた時に、ドコモグループに入るのが、会社としての最大の成長戦略だと思いました」と話す。

 ドコモ経済圏に入るメリットについては「例えば、カードを作る際、入会のインセンティブがあったり、ポイント利用に応じて加算したりするという特徴があります。お客さまを獲得するにはそういった特徴があった方がいいのです」という。

 オリックスグループ時代は、リスティング広告などの方法でプロモーションを実施していて、1人の顧客を獲得するのに要するコスト(CPA:顧客獲得単価)が相応にかかった。

 「ドコモ経済圏に入れば、お客さまにアプローチしやすいメリットがあります。dポイントは、新規のお客さまを獲得するのに効果的なインセンティブだと考えています」

ローン事業の強み

 「ローン事業」におけるオリックスグループ時代からの強みは、申し込みから債権回収まで一連の流れを全て自前でできる点だ。提携から1年以上たっての評価はどうか。

 「この1年を振り返ると、当初、やろうとしていたこと以上のことができたかなと思いますね。ドコモはdスマホローンというローン事業を手掛けています。その事業のコールセンターなど外部委託していた各種オペレーションは、この1年で当社に全て移管できました」

 バックヤードでの業務をグループ内でまとめて実行できるようになった。それはつまり外部委託費分を節約することにつながるのだ。ドコモとの提携を機に、複数の借入を1つにまとめる「おまとめローン」、個人事業主や経営者層向けのローンカードなどのサービスを開始して「着実にシナジーを生み出せている」と胸を張る。

「金利のある世界」到来 フラット35の強みが発揮できる

 住宅ローン事業では、「フラット35」(35年間、固定金利)を中心にビジネスを展開してきた。これからの日本市場は、金利のある世界に戻っていくとみられ、それに伴い、借り換え需要などの高まりが予想される。

 「金利のない世界とは、普通、変動するべき金利が、さまざまな要因から変動しない状態を指します。その問題が長期間にわたって続いてきたことから(今後も金利が上がることはないと考え)消費者の多くは変動金利を選んできました」と岡田社長は実態を語る。

 一方の「フラット35」は、長期の固定金利であり、利率は高めだ。

 「高い代わりに、長年、変わらないという安心があります。金利が今後どのくらい上がっていくのかは誰にも分かりません。このような背景もあり、引き合い件数が2024年の後半から、前年同月比でプラスになり始めています」。

 変動することはないと高をくくっていた金利が動きだした。「消費者の皆さんの中には変動の怖さを少し感じて、保険代わりに固定金利を選ぶ方が増え始めています。これまで以上に競争力のある商品になると考えます」

対応力と審査パフォーマンスを強みとする信用保証事業

 3つの事業の中で収益が大きいのは「信用保証事業」だ。

 例えば銀行、信用金庫などが個人の顧客向けに、教育やブライダルといった使途が明確な目的ローンを販売する。その時、金融機関は、ドコモ・ファイナンスのような会社を保証会社としてつけるのが通例だ。仮に支払いの延滞が起きた際にはドコモ・ファイナンスがまず代位弁済をし、その後にドコモ・ファイナンスが顧客からお金を回収する。ドコモ・ファイナンス側は、金融機関から「保証料」を受け取り、それが収益になるというビジネスモデルだ。

 「当社の場合は、銀行、ネット銀行などとの提携がありますが、特に信用金庫が強いです」

 信用金庫が強いとなると、つまり、地方での業務が多いことになる。「日本のブロック都市には営業店舗を構え、営業マンが足しげく金融機関に通い、細やかに丁寧に対応することで当社を使ってもらっています。ただ、サービス内容自体は過当競争であり、保証料も各社によって大差はありません。営業の対応力や審査パフォーマンスによって、差別化を図っています」

 ある意味で昔ながらの対応だ。業務の効率化を図るためにAIを活用する方策については「顧客ニーズを踏まえた上で検討したい」と慎重な構えだ。

与信制度と一緒に考える

 ドコモが抱える1億人の会員基盤が、グループ入りするきっかけとなった。その活用方法を聞くと「例えば、ドコモのお客さまに住宅ローンの借り替えの案内をしたり、個人情報保護の法律を守りながら与信などの制度を一緒に考えたりできると思います」と話す。

 日本での貸金の世界には、指定信用情報機関が「CIC」(Credit Information Center)と「JICC」(日本信用情報機構)の2つがある。金融機関が与信判断をするとき、両者の情報を利用する。逆に言えば、ドコモ・ファイナンスと他社との判断に大差はない。

 「どこで差が出るのかと言えば、内部情報です。例えば、CIC上の信用情報では良い内容とは言えない一方、ドコモとの何らかの取引において、正常に支払いをしている実績を積み上げているお客さまであれば承認するという考え方もあります。これにより、貸出先を広げられるとともに、貸倒リスクの回避が可能となるかもしれません」

 高いレベルの与信制度を共同で確立させる自信を示した。

 失われた30年という言葉がある通り、日本人は基本的に財布の紐が以前より固くなったそうだ。「私個人の考えですが、貸したお客さまのうち、99%はきちんと支払いをしてくれる方々で、その人たちをいかに見つけるかが大事だと思っています」

 一般的に、とある会社が発行するゴールドカードを持つ顧客が、キャッシングしても15.0〜18.0%の金利が取られる。ところが、ドコモ・ファイナンスのカードローンは、1.5〜17.8%で貸す。

 「例えば、英会話を習うための費用、子どもの学校の入学金などさまざまな資金ニーズに対応できる」と、貸すとしても前向きな人を対象にしたいという思いがある。

ドコモは自主性を重んじてくれる

 ドコモ・ファイナンスは約470人の従業員(4月1日現在)を擁する。ドコモグループ入りに伴う、オリックスグループとの社風の違いをどう乗り越えたのか。

 「実際、社風は違います。オリックスグループにも良い企業文化があります。例えば、いろんなことにチャレンジするマインドや事業の目利き、意思決定の迅速さなどがあります。これらは今後も残していきたいと思っています」

 ドコモに対し感謝していることは、「会社の独立性や自主性を重んじてくれること」だと話す。

 「実際にドコモから当社に出向している人は、常勤では10人程度。経営に関しては、任せてもらえている、信頼されていると感じています。プレッシャーはありますが、期待に応えられるように努力していきたい」

フェアに対応し続けられるか?

 岡田社長がマネジメントをする立場で意識しているのは「フェアでいること」だ。

 「何においてもフェアでいることは重要。例えば、施策を実施する際、従業員が趣旨を理解し、実行してもらう必要があるため、不公平なやり方をせず、正しく公平な立場で説明することを意識しています」

 金融商品を扱う繊細な事業を担う以上、貸し手に対して疑念を持たれてはビジネスが成り立たない。そのことを岡田社長は理解している。

 今後、ドコモの顧客基盤を有効に活用する場合、フェアに対応できれば、「最大の成長戦略」が実を結ぶことにつながるだろう。

この記事を読んだ方に AI活用、先進企業の実践知を学ぶ

ディップは、小さく生成AI導入を開始。今では全従業員のうち、月間90%超が利用する月もあるほどに浸透、新たに「AIエージェント」事業も立ち上げました。自社の実体験をもとに「生成AIのいちばんやさしいはじめ方」を紹介します。

生成AI
生成AI

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

SaaS最新情報 by ITセレクトPR
あなたにおすすめの記事PR