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NECのイベントにも登壇 FUJITSU ACCELERATORが描くグローバルオープンイノベーション

» 2025年07月18日 08時30分 公開

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 富士通は、国内の大手企業の中でも、いち早くオープンイノベーションに本格的に取り組んできた企業のひとつだ。2006年にはCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)として「Global Innovation Fund」を設立し、2015年にはスタートアップとの協業を加速させる「FUJITSU ACCELERATOR」を始動。2020年以降は、全社DXプロジェクト「Fujitra」のもと、社内外のイノベーション施策を統合的に推進してきた。

 2025年に設立10周年を迎えるFUJITSU ACCELERATORは、これまでに約240社のスタートアップと協業を実現。スタートアップの製品・サービス・ソリューションを活用することで、富士通単体では実現できなかった新たな価値や事業を数多く生み出してきた。 

 このプログラムを牽(けん)引する責任者である富士通アクセラレーター代表の浮田博文氏(戦略アライアンス本部シニアディレクター)に、インタビューした。浮田氏は2月に開催された「NEC Open Innovation Night」にも登壇(関連記事を参照)するなど、業界や企業の垣根にとらわれず、日本のオープンイノベーションをリードする存在だ。

富士通にネットワークエンジニアとして入社し米国キャリアビジネスに従事後、マーケット分析や富士通プロダクトビジネス戦略立案業務を経験。 そのスキルをベースに2007年からクラウドビジネスの立ち上げメンバーとして、日本を含む世界8拠点への展開も実行、実現。加えて、新規ビジネス創成の仕組み作りにも取り組み、FUJITSU ACCELERATOR(スタートアップ協業プログラム)の設立にも貢献。 2019年からは、スタートアップ協業の責任者としてチームをリード。趣味は野球とアイスホッケー(アイティメディア撮影)

「FUJITSU ACCELERATOR」設立の背景

 現在、FUJITSU ACCELERATORを率いる浮田氏は、2007年に富士通がクラウドビジネスに本格参入した際、立ち上げメンバーとして参画した。クラウドサービスを構築・ローンチし、それをわずか数年で世界8拠点に展開するまでに育て上げた実績を持つ。

 富士通は2006年、外部のスタートアップだけでなく、社内事業にも出資するという、世界的にもユニークなCVC「GIF」(グローバルイノベーションファンド)を設立。大企業としては早期にスタートアップとの連携に乗り出した。しかし、投資だけでは事業化にはつながりにくく、「大企業とスタートアップは水と油」ともいえるようなギャップに直面することとなったと話す。

 その壁を乗り越えるために2015年に設立したのが、FUJITSU ACCELERATORだ。革新的なスタートアップの技術や製品と、富士通グループのソリューションやサービスを掛け合わせることで、社会に新たな価値を提供することを目的としている。

 このプログラムの立ち上げにおいて中心的な役割を果たしたのが、徳永奈緒美氏だ。当時としては珍しい女性のアクセラレーター担当として、国内外のスタートアップとの関係構築や社内連携に尽力し、現在のプログラムの礎を築いた。残念ながら徳永氏はその後、病気のために急逝。現責任者の浮田氏は、彼女の遺志を引き継ぐ形でプログラムの継続・拡張に取り組んでいる。

共創体制「Uvance」とは?

 富士通は、2021年10月にグローバルビジョン「Fujitsu Uvance」を掲げ、サステナブルな未来の実現を目指す事業戦略へと大きく舵を切った。このビジョンの中核にあるのは、「デジタル社会の発展」「人々のウェルビーイング向上」「地球環境課題の解決」という3つの社会的テーマだ。

 しかし、これらの課題は一企業だけで解決できるものではない。だからこそ富士通は、スタートアップ、銀行、アカデミア、企業、市民、自治体といったさまざまなステークホルダーと連携し、業界や領域を横断する「クロスインダストリー型の新たな価値創造」に取り組んでいる。

 そのための社内体制として、スタートアップとの協業を推進する「FUJITSU ACCELERATOR」(2015年設立)、専門人材によるCVC投資を担う「Fujitsu Ventures」(2021年設立)、社内起業家の育成を支援する「Fujitsu Innovation Circuit」(同年始動)など、複数の取り組みを有機的に連携させながら、共創のエコシステムを築いている。

富士通のWebサイトより

FUJITSU ACCELERATORの仕組み

 こうした全社的な共創体制の中核を担い、スタートアップとの協業を実ビジネスへとつなげる“実装の最前線”を担っているのがFUJITSU ACCELERATORだ。

 本プログラムでは、富士通が有する量子インスパイアド技術、クラウドサービス、HPC(高性能コンピューティング)などの先端テクノロジーに加え、世界に広がるクライアントやパートナーとのグローバルネットワークを活用し、初期段階から顧客を巻き込む形で、スタートアップと共に、社会課題の解決や新規事業の創出に取り組んでいる。

 特に、富士通の技術をスタートアップに提供し、それをもとにユースケースを共創していくスタイルが特徴だ。機動力の高いスタートアップだからこそ実現できるスピード感と柔軟性を生かし、具体的なプロダクトやサービスとして社会実装へとつなげている。

具体的な取り組み事例:

  • H&Wサポート株式会社:富士通が体操競技をサポートする中で培った世界最先端の高精度な骨格分析技術により、人の動きをデジタル化するデータ解析プラットフォームHMAを取り入れたトレーニングマシンの提供(2025年)
  • 株式会社みらい翻訳:AI翻訳サービス「Zinrai Translation Service」の提供(2021年)

 さらに今後は、ビジネスとしてより大きなシナジーとインパクトを生み出すために、富士通と大手企業とのパートナーシップや、バイセル構造の中で足りないピースをスタートアップが補完するといった「ベンチャースタジオ型」での共創にも注力していく方針だ。そこで生まれたソリューションを、他企業・他業界へと横展開し、スケーラブルなビジネス価値の創出を目指している。

,富士通のWebサイトより

オープンイノベーションの課題

 FUJITSU ACCELERATORは、スタートアップとの協業において豊富な実績を積み重ねてきた。しかしその過程で、いくつかの構造的な課題も見えてきている。

 浮田氏がまず挙げたのは、出口戦略の少なさだ。「これからのオープンイノベーションは、単なる協業ではなく、大企業によるエクイティやM&Aといった“取り込む選択肢”も含めた、より複雑で高度なゲームになっていくのではないかと感じています」

 つまり、スタートアップにとっての次の選択肢をいかに多く提示できるかが、イノベーション成功の鍵になる。そうした観点では、大企業側にもより高い専門性と戦略眼が求められるようになる。

 もう一つ、浮田氏が重視するのが「社内の共創意識」だ。

 「私がチームメンバーにいつも伝えているのは、私たちだけが意識を高く持っていても、何も動き出さないということ。全社的に共創の意義を共有し、理解してもらうことが不可欠です」

 そのためFUJITSU ACCELERATORでは、社内へのスタートアップ事例の発信やイベント開催など、継続的な情報発信と意識改革にも注力している。一部門だけに閉じない、組織全体での“土壌づくり”が、イノベーションを持続的に育てる鍵となりそうだ。

日本から世界へ 富士通のグローバル共創戦略

 FUJITSU ACCELERATORでは現在、約8割が日本国内スタートアップとの協業だが、すでにグローバル展開に向けた地盤づくりも進んでいる。シリコンバレーをはじめとする海外拠点との連携、グローバルマインドセットを持つスタートアップとの接点づくり、英語でのコミュニケーションに対応できるチーム体制の整備など、着実に体制強化が進められている。

 6月には、海外スタートアップとの新たな出会いを目的に、フランスで開催された欧州最大級のテックスタートアップ見本市「Viva Technology」に登壇し、欧州を中心とするスタートアップに向けリバースピッチも実施。グローバル共創の次なるステージへ向け、具体的な一歩を踏み出した。

 「世界で戦いたいという思いは、個人としてずっと持ち続けています。すぐに成果が出るものではありませんが、地道にネットワークを築き、しっかり“網”を張って、諦めずに続けていきたいです」と語る浮田氏。

 企業が新規事業を進める中で、課題になるのが経営者の理解に加えて、社内の理解でもある。新規事業はすぐにお金になりにくい。しかし、新たな取り組みをすることそのものが、企業の価値になる。国内・海外スタートアップ企業とコラボレーションを含む、新規事業の立ち上げのプロセスでさまざまな部署、パートナーとの協業が、今後の企業内における社員のソフトスキルを向上させ、企業全体のパワーに変革をもたらす。

 富士通が描く共創の未来は、すでにグローバルを前提に進化を続けている。オープンイノベーションをいかに実装し、いかに事業へと昇華させていくか──その挑戦は、富士通だけにとどまらず、日本企業全体が向き合うべきテーマでもある。今後も同社、同プロジェクトの取り組みに注目していきたい。

著者紹介:平野貴之

ベアーレ・コンサルティング株式会社 代表取締役社長(CEO)。

イタリア・オリベッティ社に入社し、英国ケンブリッジ大学との共同最先端技術の部隊「マルチメディアタスクホース」に選ばれ、NTT、日本IBMなど最先端技術販売に成功し、社長賞、トップセールスなど多数受賞。その後、日本初上陸最先端テクノロジーに魅かれ、米国DirecTV技術を利用した通信衛星インターネットサービス会社の立ち上げに設立から従事し、ソニーミュージック、ソフトバンク(当時、日本テレコム)、日立電線などから3億5000万円の出資を受け新会社ダイレクトインターネット社設立に成功。

日本をはじめ、香港、マレーシア、インドネシア、シンガポール、オーストラリアなどグローバルビジネスデベロップメントも経験。

最先端テクノロジーを誰でも、いつでも、どこでも利用できるような、豊かな未来創りに少しでも役立っていきたい、もっとスピード感のある日本社会、そして幸せな生活プラットフォーム作りを支援し、提供していくために、1996年ベアーレ・コンサルティング株式会社を設立。

イスラエルビジネスのパイオニアとして、2001年からイスラエルハイテクスタートアップ企業への支援事業をスタート、現在も支援事業を拡大中。

ベアーレ・コンサルティング株式会社の公式サイト

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