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最初は衝突が絶えなかった──クレディセゾンCDOに聞く、エンジニアが徹底する“とある原則”とは?3年連続「DX銘柄」選出(3/3 ページ)

» 2025年07月23日 06時00分 公開
[仲奈々, 大村果歩ITmedia]
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「自分たちにはない強み」を実感した出来事も

 しかし、原則を浸透させるだけでは限界もあった。そこからさらなる相互理解をもたらしたのは、互いの強みを実感する「体験」と「データ」だった。

 小野氏はあるシステムリリース時の出来事を振り返る。

 システムを本番環境に導入するために、最終判断を下す重要な会議で、経営層への報告が行われた。テストの進捗、不具合の発生率、パフォーマンステストの結果──全てが計画通りに進んでいることを確認し、「リリースOK」の判定が下された。

 しかし、会議終了直後に、リリース判定を覆さなければならないような、重大な問題が見つかったのだ。

 モード1のメンバーは、緊急時対応のマニュアルに沿って、手順通りに動こうとした。マニュアルに従った正しい対応なのは大前提だが、確実にリリースは遅れてしまう。そこで予想外の動きを見せたのが、モード2のチームだった。

 「彼らは『技術者を全員集めて、問題を解決できないか』と動き回ったんです。その結果、なんと2時間で解決策を見つけてしまった。モード1の人たちは『自分たちには考えられない対応だった』と感心していましたね」

クレディセゾン CDO兼CTOの小野和俊氏

 またある時には、モード1のスタンスがモード2を手助けする場面も見られた。モード2である内製チームが開発したスマホアプリ「セゾンPortal」がヒットし、ダウンロード数が急増し、社内の注目度が一気に高まったときがあった。しかし、その成功が新たな課題を生んだのだ。

 「各部署から『うちの商品をアプリ内バナーで紹介してほしい』という要望が殺到しました。各部署の要望はできるだけ叶えたいけれども、企業都合の広告ばかりになってしまうのは、ユーザー目線で考えるとあまりいい状態ではありません。モード2のメンバーは、こういった社内調整に慣れていなくて……」

 そこで力を発揮したのが、モード1の情シス部門だった。

 「彼らにとって、部署間の調整は日常茶飯事です。会議に同席してもらったところ『これは来週までに優先順位を整理します』『今日の宿題はこれでクローズでいいですね』とテキパキさばいてくれた。まさにプロの仕事でしたね」

 実体験による相互理解と並んで、もう一つの重要な要素が「データに基づく対話」だ。

 ある基幹システムの更新プロジェクトを進めていた際、モード2である内製チームからは「最新のクラウド技術を活用すべき」という意見が、そしてモード1である既存IT部門からは「実績あるメインフレームの利点も考慮すべき」という意見が出され、議論が活発化したことがあった。

 「議論が平行線になりかけた時、『実際のデータで比較してみよう』という提案が出たんです」

 そこでテクノロジーセンターのメンバーで、パフォーマンスや費用対効果についての検証を実施した。

 「この処理ではクラウドが〇%効率的」「メインフレームの応答速度が〇ミリ秒速い」など、具体的な数値で対話をすることで、それぞれの技術の適材適所が見えてきたという。この客観的なデータが、議論を大きく前進させた。

DXに必要なのは、技術だけではない 「心理的安全性」の高いチームづくり

 テクノロジーセンターでのみ掲げていた4原則は、全社的な変革へと発展した。

 「最初はテクノロジーセンターだけで実践していました。ただ、自然に社内で評判が広がっていったんです。『あのチーム、年齢や役職に関係なくどんどん発言してるよね』と」

 その評判は人事部門にも届き、「心理的安全性の高いチームづくりの仕方を教えてほしい」と相談が来るほどに。これをきっかけに、全社的な取り組みへと発展していった。「心理的安全性タスクフォース」が社内で立ち上がり、全社員に向けた取り組みを行っている。

 「例えば、組織の心理的安全性を高めるための行動指針が書かれた、『心理的安全性カード』を全社員に配布しています。新入社員は入社時に必ず心理的安全性に関する研修を受講。私も常に携帯していますが、使いすぎて擦り切れてしまっています(笑)」

クレディセゾン CDO兼CTOの小野和俊氏

 3年連続のDX銘柄選出。その背景には、技術革新だけでない、組織風土を大きく変える変革があった。

 心理的安全性を重視し、違いを認め合える組織を作る。違いを認め合えるから、モード1、モード2それぞれが機能し、真のDXが実現する──。

 実際、3人からスタートしたテクノロジーセンターは、現在は200人規模に拡大。組織には、経験豊富なエンジニアだけでなく、意外なことに「未経験者」もいるという。次回は、クレディセゾンの「エンジニア」育成について、詳しく聞いた。

後編はコチラ

【お詫びと訂正:2025年7月23日午後4時 本文初出で、システムの外販について「5年で150億円の大きな収益を見込んでいる」としておりましたが、正しくは「5年で150億円の売り上げを見込んでいる」でした。訂正してお詫び申し上げます。】

この記事を読んだ方に 老舗メーカー、驚異の全社DX

厨房機器の製造・販売を手がける中西製作所は、5代目社長の就任を機にDXへと大きく舵を切りました。非IT企業でありながら、なぜここまで全社的にデジタル活用を浸透させられたのか──。背景にある「トップの哲学」と、「横展開が進む仕掛け」とは?

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