大手PCメーカーのレノボ・ジャパンは、2025〜2026年度の事業説明会を開催し、注力領域として「顕在化するニーズへの対応」「中長期のコンピューティングパワー活用」を挙げた。AIの登場によってPCの世界が大きく変化している。世界情勢も不安定化し、日本もその影響から避けられないという複雑な市場環境だ。
日本市場でいかにして事業を拡大していくのか。レノボ・ジャパンの檜山太郎社長に戦略や今後の見通しを聞いた。
檜山太郎(ひやま・たろう)1963年生まれ。1987年、東芝に入社。東芝 パーソナル&クライアントソリューション事業部長、東芝クライアントソリューション取締役を歴任。2017年に日本マイクロソフト執行役員 常務就任。2022年10月からレノボ・ジャパン代表取締役社長。東京都出身レノボ・グループの2024〜2025年度の通期決算によると、グループ収益は前年比21%増の690億7700万米ドル、純利益は同36%増の14億4100万米ドルの増収増益だった。AIを搭載したPCやAIサーバなどAI関連の需要がけん引した形だ。
一方で、売上高におけるPC以外の比率が47%と、ほぼ半分を占めるまでに成長している。檜山社長は「市場は、インフレやトランプ関税などの不透明さがあるため、ハードウエアを持つ企業として財務体制を強くしていかなければなりません。それがPC以外で収益率が高いものを展開するという方向性です」と話す。PC以外の売上比率は今後も高くなっていきそうだ。
その方策の1つとして「PCを売って終わり」ではなく、修理、システムの管理、資産管理、破棄までの包括的な流れを当該企業から代行するサービスを展開している。収益は、月額料金で徴収する形だ。「私たちは事業としてDaaS(Device as a Service)と呼んでいますが、その比重が増えていて、日揮ホールディングスさまや島根銀行さまなどが導入しています」
日揮は、国内拠点のPC約6000台を刷新した。世界中にプラントを持っていて、中には砂漠のど真ん中にあるような非常に厳しい環境下もある。そのような場所でもPCを持ち歩かなければならないわけだが、もし現地で何か問題が発生した際、日揮内にあるIT部門に(国際)電話をしても、時差などを含めて対応しきれない可能性がある。そういった場合に、世界中にあるレノボのローカル拠点からサポートすることができるのだ。
セキュリティについては、国内のみならず、世界でも安全の担保できるものが求められている。檜山社長は「端末、サーバ、データセンター、ネットワークまでを全て一元管理をして、世界レベルでやりますという企業はあまりないと考えています」とレノボの強みを強調した。
2025年もAIがPC業界の話題の中心だ。檜山社長は近い未来にさらなるAIの波が来ると考えている。「米マイクロソフトがBuildという開発者向けのフォーラムで、1年間の開発計画を発表しました。そこで、全てのウィンドウズ環境にMCP(外部のデータソースやツールとコンテキストを共有し、シームレスに連携するための標準プロトコル)を搭載すると発表しました。これはAIの標準化が加速する話なのです」
今後、パブリッククラウド、オンプレミス、エッジのレイヤーごとに、AIエージェントが組み込まれるようになり、各AIエージェントが利用者の業務管理などをしてくれるようになるという。
「例えば、私のエージェントは、自分の好みや労働実態を知りながら、各種管理してくれます。これにMCPが組み込まれると、私個人のエージェントと、会社のエージェントが話し合いを始めます。そこから今日、私はA銀行の人と会うから、A銀行の年次報告書をA4の紙数枚にまとめておいてくれるなど必要なことをしてくれるのです。これは5年より先の世界と思っていたのですが、一気に目の前に来た状況です」
ただ、AIは大量のデータをやり取りするため、日本のデータセンターがパンクする可能性もあると檜山社長は懸念している。
「データがあふれたところをどこに持っていくかという議論が、これから起きるでしょう。その解の1つが、オンプレやエッジというハードウエアだと考えていて、そこで処理がされると推測しています」
コンピュータの歴史を振り返ると、昔はメインフレームと呼ばれるコンピューターを使い、データを集中管理していた。それが、徐々にデータを処理しきれなくなることに。そこで、PDAなどダウンサイジング化した小さなデバイスを作り、あふれたデータをデバイスで処理する分散型にシフトした。その後、クラウドが登場。再び集中管理するようになった。そして現在、AIの時代となり、データセンターでは処理できなくなるという懸念から、再び分散管理をせざるを得ない状況になっていくという。まさに歴史は繰り返されている。
「正直なところ、やってみないと、分からないところはあります。データセンターのキャパも増え、効率化もするでしょうし」
エッジに処理速度が求められるのであれば、PCの販売においてはスペック競争の時代になるのかと聞くと「その通りです」と話す。注力領域としてコンピューティングパワーを挙げた理由には、こういう背景もあったのだ。
しかし、レノボが高性能なPCを用意しても、企業側の準備が整っていなければ意味をなさない。
「各企業はデータ準備をしっかりしておかないと、各レイヤーのエージェント同士が会話できなくなります。営業や経理など各部門が持っているデータなどを組み合わせると、顧客に対してどうすれば収益が上がるかなどという提案が可能ですし、データが一元管理されるので、それをベースとした新商品の開発などもできます。欧米はそういうやり方をしています」
各企業が競争力を持つためには、AIエージェントの時代が来ることを覚悟し、そのための準備ができるかどうかにかかってくるようだ。
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