RITE AID破綻の根本的要因を理解するには、競合他社との戦略的な違いを分析する必要があります。最大の差異は垂直統合への対応速度とその成功度にありました。
米国最大級のドラッグストアチェーンであるCVSは、2007年にPBM大手Caremarkを買収し、さらに2018年には保険大手Aetnaを買収することで、保険→PBM→薬局という医療用医薬品流通の商流を自社内で完結させる垂直統合を実現しました。これにより従来PBMに支配されていた償還額の決定権を自社が握ることで、収益性を大幅に改善したのです。
CVSと並ぶ大手のWalgreenは、ヘルスケアテクノロジー企業のVillageMDの買収により、プライマリケア分野への進出を図りました。完全な垂直統合ではありませんが、薬局+診療所のシナジー効果を狙った戦略的多角化を推進しました。
しかし、想定よりも運営が困難で費用がかかることが判明し、運営コストと資本要件の上昇により数十億ドルの損失を計上し、VillageMDの株式を売却するだけでなく、本体がプライベートエクイティ投資会社に買収され、非公開化で合意する状況に追い込まれています。
これに対してRITE AIDは、従来型の薬局モデルに固執し、戦略的な方向転換を図れませんでした。CVSやWalgreenが医療サービスに進出する中、RITE AIDは薬剤師を核とした差別化戦略を取りましたが、これは競合に対して十分な差別化とはなりませんでした。
RITE AIDが買収したPBMのEnvisionRxは、不平等な競争環境からの脱却を狙った戦略でしたが、規模が小さすぎて有効な交渉力を持てませんでした。結果として垂直統合の中途半端な試みに終わり、かえって経営資源を分散させることになりました。2024年2月、同社はEnvisionRxの事業を売却することになりました。
RITE AIDのデジタル戦略を分析すると、決して無策だったわけではありません。むしろ大きな投資を行っていました。
2020年、RITE AIDはAdobeと提携し、オムニチャネル体験の構築に着手しました。Adobe Experience Cloudを活用して顧客データの深掘り分析、パーソナライズされたプロモーション、処方箋リマインダーなどの機能を展開しました。
同社幹部は「深い顧客インサイトを活用してRITE AIDの体験を数百万人の顧客に向けてパーソナライズできるようになります」と説明していました。
同じく2020年に新しいWebサイトとモバイルアプリをリリース。処方箋のバーコードスキャン機能、ワンクリック処方箋更新、ロイヤルティプログラムなどを実装しました。第4四半期にはデジタル関連売上が28%増加する成果も上げており、こちらはCVS、Walgreenに劣後せずに一定の成果をあげました。
デジタル棚札のテストも実施し、店舗内でのモバイルチェックアウトやフリクションレスな体験の提供を目指していました。
2020年に発表した戦略では、薬剤師をApple StoreのGenius Barのような存在として前面に打ち出し、伝統医学と代替医療の融合など先進的な取り組みを計画。「薬剤師は最も活用されていない医療提供者であり、ヘルスケアのラストマイルにおけるミッシングリンクになり得る」という考えに基づいていました。
なお、筆者は薬剤師が生活者とのヘルスケア接点の間口になることは重要と考えます。しかしながら、薬局が代替医療に取り組むことには否定的です。参考に筆者が過去に書いた記事を共有します。
(参考記事:薬局が代替え医療に注力することについて)
RITE AID はリテールメディア事業にも参入していました。
2020年10月には、デジタルプロモーション・メディア・分析会社のQuotientとパートナーシップを結び、Rite Aid Performance Mediaを立ち上げました。これは明確に「新たな代替収益源」として位置付けられ、ブランドがRITE AIDの顧客にターゲット広告を配信できるプラットフォームでした。
Amazonがリテールメディア事業で成功を収めている中での後追い戦略でした。「小売業者が所有するデジタル資産を広告プラットフォームに変える」という業界トレンドに乗ろうとしたわけです。
RITE AID所有・運営のデジタル資産、ソーシャルメディア、サイト外プログラマティック・ディスプレイ広告、デジタルサイネージ広告での広告配信に加え、デジタルクーポンとの連動機能も提供していました。
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