CxO Insights

日本のプロバスケが“世界初”の大改革へ Bリーグが変える「スポーツ経営の常識」とは?10周年の節目(1/2 ページ)

» 2025年08月08日 08時30分 公開

 創立10周年を迎え、10月3日に2025-26シーズンが開幕する男子バスケットボールのプロリーグ「B.LEAGUE」(Bリーグ)。2026-27の来シーズンからは、クラブの健全経営のため、リーグの競争力維持を目的とする「B.革新」に基づいてリーグ構造の変更を伴う、大きな変革に挑む。これまでのB1〜B3の階層制から、B.LEAGUE PREMIER(Bリーグプレミア)、B.LEAGUE ONE(Bリーグワン)、B.LEAGUE NEXT(Bリーグネクスト)の3つのリーグに再編する。

 競技成績による昇降格制度を廃止し、「経営」「強化」「社会性」といった3つの軸を持つB.革新を進めることによって、さらなる人気の加速と定着を狙う。

 この改革の中心にいるのが、Bリーグを運営する公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグの島田慎二チェアマンだ。島田チェアマンは「スポーツクラブも普通の会社のように黒字化させ、事業スタッフにきちんとした報酬を払うようにしたい」と話す。

男子バスケットボールのプロリーグ「B.LEAGUE」は競争力維持を目的とする「B.革新」に基づいてリーグ構造の変更を伴う、大きな変革に挑む(C)B.LEAGUE

 Bリーグプレミアでは、26クラブが参加する「エクスパンション型」を採用。クラブの昇降格がなく、クラブ数を増やす場合は、リーグ側が市況に合わせて判断する方法だ。北米のバスケットボールリーグNBAも同じ方式を採用している。

 日本の野球もエクスパンション型、サッカーのJリーグは競技成績による昇降格を採用しているものの、基本的に制度を変えることはない。Bリーグは、昇降格からエクスパンション型へと制度変更する点で、世界的にも珍しいプロリーグとなる。つまり、勝負と同じぐらい持続可能な経営を重視する意味で「世界初」と言えそうだ。

 クラブが、例えばプレミアに参加するためには参入条件を設けた。(1)収容人数5000人以上かつスイートラウンジ(VIPルーム)の設置などを兼ね備えたアリーナ、(2)1試合平均入場者数4000人以上、(3)年間売り上げ12億円以上といった基準を満たす必要がある。島田チェアマンに、改革の真意やBリーグ隆盛の理由を聞いた。

島田慎二(しまだ しんじ)B.LEAGUE チェアマン 。新潟県出身。日本大学卒業後、マップ・インターナショナル(現HIS)入社。その後、旅行関連2社を起業(うち1社の売却)。 2012年には、bjリーグ「千葉ジェッツ」運営会社ASPEの社長に就任し、リーグトップレベルの入場者数を誇るクラブへと変貌させた。 2016年9月、B.LEAGUE理事に就任。2017年にはB.LEAGUE副理事長(バイスチェアマン)に就任。 2019年「千葉ジェッツふなばし」会長に就任後、2020年7月、千葉ジェッツを離れ、B.LEAGUEチェアマンに就任

事業規模は9年間で3.6倍 経営サイドからリーグを発展

 2024-25シーズンの入場者数は、484万5109人と過去最高を記録した。Bリーグの初年度(2016-17シーズン)は223万8043人。参加クラブ数などの違いはあるものの、8年で2.2倍に伸びたことになる。B1における平均入場者数も、初年度の2779人から1.7倍の4849人に増加した。

 2025年2月時点での2024年度の見込み事業規模は、初年度の196億円から706億円と3.6倍に伸びている。客の属性を見ると、男女比は46.4%対52.2%と女性が多い。年齢層も18歳以下から30〜39歳までの若い世代の合計が42.8%を占める。

 エクスパンション型への移行の意図について、島田チェアマンに聞いた。その意図は、クラブ経営において競技力向上は重要ではあるものの、競技に寄りすぎる傾向があり、ビジネス側に投資が向かないことを懸念していたと話す。

 「選手の能力が高いために年俸が上がるなら経済的合理性はあります。ですがここ数年、ただ単に過当競争という感じで、成績が良くない選手でも年俸が上昇する傾向がありました。一方で、運営スタッフは頑張っているにもかかわらず薄給である状況があります。もし運営スタッフが辞めてしまえば、地元にクラブを根付かせようとしても、根付ききりません。もう誰も幸せにならない状況なのです」

 選手とフロントが一体となってこそのクラブ力だ。両者がハッピーでなければ、クラブ成績が不安定になり、地元でのプレゼンスは乱高下する。そうすると、クラブの経営は不安定に陥いりやすくなってしまう。

 実はクラブがあまり勝てなくても、スタッフの頑張りによって、クラブ経営は何とかなることもあるそうだ。「年間売り上げ12億円という事業成績の基準を打ち出したのは、経営サイドからBリーグを発展させる形にしないと、競技力もクラブとしての持続可能性も高まらないからです」

 収益を出さなければ、クラブの消滅は不可避だ。「スポーツクラブも普通の会社のように黒字化させ、スタッフにきちんとした報酬を払うようにしたいのです。選手は商品のように置き換えて考えることもでき、つまり商品開発に投資するのと同じです。その概念がスポーツ界になかったのです」

客の属性の男女比は46.4%対52.2%と女性が多い(C)B.LEAGUE

損益分岐点を下げられる「夢のアリーナ」

 B.革新の核の1つがアリーナの建設だ。現在、全国各地で新アリーナを建設または改修している。そこで、前述のように各種要件をつけた。

 クラブは、自治体にアリーナ使用料を払う場合と、自前のアリーナを持つ場合の2つがある。特に使用料を払うケースでは、さまざまな面で経営の自由度が下がってしまう。それは野球の北海道日本ハムファイターズが、札幌ドームからエスコンフィールドHOKKAIDOを作った理由からも明らかだ。

 「鶏と卵の関係です。アリーナ側は使用料を高くしてもうけたい。でも高くなってしまうと、クラブからすれば、もうけにくくなって魅力的なクラブ作りができません。それでお客さんが集まらなくなり、地元への経済効果に寄与しない。この悪循環につながります」

 使用料をリーズナブルにすることによって魅力的なクラブとなるならば、ひいては自治体のプレゼンスが高まる。この方が、費用対効果が高いことを関係者に理解してもらえるかが「私の仕事」とも話す。

 地方創生リーグとうたっている以上、Bリーグのトップとして、地域に利益をもたらさないと意味がないと島田チェアマンは考えている。「経営努力によってクラブが強くなれば、地域が盛り上がります。アリーナの存在も世の中に知られ、ネーミングライツの成立もしやすくなります。そうなれば、損益分岐点が下がるのです」

 VIPルームの設置も、経営をしやすくするための方策の1つだ。投資をしてくれる企業の幹部を始めとしたVIPを迎えられる環境を整えなければ、投資を呼び込むイベントも誘致できない。VIPを作りたいという発想ではなく、投資を呼び込むという目的から逆算した結果、VIPルームが必要だという判断に至った。

 屋内施設は、格闘技、バレーボール、卓球、コンサート、各種文化イベントなどいろいろなイベントを開催できるのが強みだ。格闘技イベント「RIZIN」も最近、アリーナ建設に乗じて地方での興行開催に力を入れていることは、以前レポートした(Bリーグ普及が生んだ「RIZIN」の地方進出 榊原CEOに聞く札幌大会開催の意義)。

 島田チェアマンは「他の競技の方々も相乗りしてくれればいいんです」と話す。地域で何らかのイベントがあれば、人が集まりお金が落ちる。Bリーグの取り組みは、「地方創生リーグ」を、まさに体現していることになる。

避難所としても機能

 アリーナは、震災時の避難所にもなるというメリットも見逃せない。単なるエンターテインメント施設ではなく、市民を守るシェルターになるという社会的な大義があるからこそ、地方にアリーナができるのだ。

 だが過去を振り返れば、ハコモノを建設したものの、運営に失敗した自治体は少なくない。その上、人口減少によって財政が厳しくなり、維持費がかかるハコモノ建設に慎重になる自治体も多くなった。

 「大勢の人が誤解しているのは『うちみたいな田舎に、そんなものがあっても意味がない』と話すことです。私は、そうではないと考えています。なぜならクラブがあれば、地元の人のほか、周辺の地域からも来場するからです。『おらがまちのクラブ』があることは、非常に意義があることなのです」

 今後AI時代になればなるほど、リアルな体験の重要性は、「逆に人類史上最も高まる」と島田チェアマンは予想する。リアルな観戦体験の価値は、向上していくと見ているようだ。

AI時代になればなるほど、リアルな体験の重要性は「逆に人類史上最も高まる」と島田チェアマンは予想する
       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

SaaS最新情報 by ITセレクトPR
あなたにおすすめの記事PR