ヘルスケア企業3Hメディソリューション(東京都豊島区)が主催する、がん啓発音楽イベント「Remember Girl's Power!!」(通称・オンコロライブ)が、9月の開催で10回目を迎える。小児がんや15〜39歳の若年性がん、臨床試験(治験)という注目が集まりにくいテーマを、女性アーティスト中心のステージによって10年間発信し続けてきた。
豊島区共催「Remember Girl’s Power !! 2025」は総勢80人のアーティストによる小児がん・AYA世代がん、臨床試験(治験)啓発のためのチャリティーライブだ(公式Webサイトより)2020年のコロナ禍以降、無料配信化や、2021年以降の豊島区との連携を経て、現在ではオープンスペースで開催。誰でも当日無料で観覧可能にしている。
豊島区との協業と無償化に伴い、オンコロライブはイベント規模を拡大中だ。初回の2016年は1日で6アーティストが出演していた。それが10回目となる2025年は、4日間にわたって16アーティストが出演。出演者は100人に及ぶ。
有名ではないチャリテイーライブを10年間、どのように支え、豊島区との連携を経て規模を拡大してきたのか。がん啓発というテーマでどのようにブランディングを進めていったのか。【「がん啓発ライブ」を有償→無償モデルに転換したワケ ヘルスケア企業の挑戦】に引き続き、運営の舞台裏を、オンコロライブ実行委員長の柳澤昭浩さんに聞いた。
柳澤昭浩(やなぎさわ あきひろ)18年間の外資系製薬会社勤務後、2007年1月より10期10年間に渡りNPO法人キャンサーネットジャパン理事(事務局長は8期)を務める。科学的根拠に基づくがん医療、がん疾患啓発に取り組む。2015年4月からは、メディカル・モバイル・コミュニケーションズ合同会社の代表社員として、がん情報サイト「オンコロ」コンテンツ・マネージャーなど多くの企業、学会のアドバイザーなど、がん医療に関わる様々なステークホルダーと連携プログラムを進める。「エンタメ×がん医療啓発」を目的とするRemember Girl’s Power !! (Remember Girl’ Power !!)などの代表――オンコロライブは、どのようなイベントとして定着したと思いますか。
このライブは女性アーティストの力を借りて、小児がんや「AYA(Adolescent and Young Adult、思春期・若年成人)世代」と呼ばれる15〜39歳の若年性がん、そしてこれらの臨床試験(治験)への理解を広げるアイデアから始まりました。4年目までのチケット販売モデル時代の学びを踏まえ、無料開催・無料配信や自治体との共催、寄付・協賛の組み合わせといったモデルに移行したことで、啓発と持続性の両面でバランスが取れてきていると感じています。
――10回目を迎えて、納得している点と、乗り越えられていない課題について教えてください。
ライブの目標は、がんの啓発が観客に届くことです。そのために満たすべき条件は、4つあると考えています。1つ目は、コンテンツがぶれずに小児がんやAYA世代、臨床試験の啓発を的確に伝えていること。2つ目が、制作者側がその意図を継続的に言語化し、伝え続けられる姿勢を保つこと。3つ目が、出演者に開催の意図がきちんと伝わり、当日のパフォーマンスに反映されることです。最後に、それを受け取る来場者が評価し、行動変容につながるかどうか。ここまでを含めて、初めてゴールに近づきます。
こうした条件は明確であっても、それを10年間にわたって維持し続けることには大きな難しさがあります。制作側の体制や環境が時間とともに変わりますから、当初の目的が薄まりやすくなるからです。キャスティング時にアーティスト側へ意図を正しく浸透させ続けることも容易ではありません。組織が10年続くと、多くの団体が同じようなリスクに直面しますが、それでも続けることによって自走できる部分も徐々に生まれてきます。
――意図が制作側から出演者、ステージの表現まで届くかどうか。これには伝言ゲームのような難しさがありますよね。
その通りです。だからこそ意識して続けてきたのは、出演マネジメントとのコミュニケーションを徹底することです。オンコロライブは、「Remember Girl's Power!!」という正式名称で、女性アーティスト中心の編成で10年間ブランディングを展開してきました。しかし出演者の中には、月に10〜15本というライブ本数をこなすグループもあり、数あるイベントの一つと捉えられる懸念も持っていました。
そこで、オンコロのステージがマネジメントや出演者にとって「単なる一つのステージ」として埋もれないよう、マネジメントには必ず開催趣旨の説明の時間を取り、ライブ趣旨を丁寧に説明し、出演者にも意図が降りるようお願いしました。
さらに、可能な限り事前に私やスタッフで全出演者のライブを観に行き、直接会ってごあいさつをし、意図を自分の言葉で伝える機会を設ける努力をしました。名刺を渡すために会場間を移動することもありました。小さな接点の積み重ねがパフォーマンスの質に跳ね返ると信じてやってきました。
――足で稼ぐ、古き良きやり方だと思います。これは柳澤さんが製薬会社勤務時代に培った営業経験の影響もありますか。
あります。私は医療領域での営業を長年してきたのですが、この経験からいわゆる「ランチェスターの法則」を取り入れています。これは弱者の戦略で、この種のイベントに新規参入する者が、相手との接触回数を増やすことで伍する戦略です。オンコロライブは、大規模イベントと比べれば知名度がありませんから、とにかく出演してほしいアーティストのライブには顔を出し、関係者と信頼関係を築くことを惜しみませんでした。
女性アーティストが多い現場なので、手土産も相手の嗜好を下調べして、安価でも気持ちが伝わる一点を用意するなど、細部に気を配りました。ありきたりではない小さな心遣いを積み重ねるのが、他のイベントとの違いだと思います。
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