自治体DX最前線

答弁案の作成は“デジタル部下”に任せる――自治体業務は「AIエージェント」でどう変わるのか?(1/2 ページ)

» 2025年09月05日 07時00分 公開
[川口弘行ITmedia]

著者プロフィール:川口弘行(かわぐち・ひろゆき)

photo

川口弘行合同会社代表社員。芝浦工業大学大学院博士(後期)課程修了。博士(工学)。2009年高知県CIO補佐官に着任して以来、省庁、地方自治体のデジタル化に関わる。

2016年、佐賀県情報企画監として在任中に開発したファイル無害化システム「サニタイザー」が全国の自治体に採用され、任期満了後に事業化、約700団体で使用されている。

2023年、公共機関の調達事務を生成型AIで支援するサービス「プロキュアテック」を開始。公共機関の調達事務をデジタル、アナログの両輪でサポートしている。

現在は、全国のいくつかの自治体のCIO補佐官、アドバイザーとして活動中。総務省地域情報化アドバイザー。公式Webサイト:川口弘行合同会社、公式X:@kawaguchi_com


 こんにちは。「全国の自治体が抱える潜在的な課題を解決すべく、職員が自ら動けるような環境をデジタル技術で整備していく」ことを目指している川口弘行です。

 前回はAIエージェント、特にプログラムを自動生成するコーディングエージェントについて解説しました。

(参考記事:なぜ「BPR」「RPA」では限界なのか? 自治体DXを“職員主導”で進めるAIエージェント活用術

 コーディングエージェントでも、従来のローコードツールでも、Excelマクロでも、職員が内製する仕組みは庁内のITガバナンスを考える上で頭を悩ませる問題ですが、逆に「低コストで作成して、使い捨てする」と割り切れるのであれば、対処の道はあるというのが筆者の考えです。

 その際、外側のツールが変化しても、組織の中で長期にわたって揺るがないものもあります。それは「データ」です。

 ボストンコンサルティンググループの『全社デジタル戦略 失敗の本質』(日経BP)という書籍において、興味深い指摘がされています。

 ERP(全社横断的に顧客販売や財務などの企業データを管理する統合システム)を導入する際の欧米企業と日系企業の違いについての記述だったのですが、

 欧米企業はERPをデータドリブンでとらえるが、日系企業はオペレーションドリブンでとらえる

――とありました。

 つまり、欧米企業にとって、社内システムは企業データを入れておく箱でしかなく、箱の外側の違いについてのこだわりは少ない一方、日系企業ではこれまでの企業内部での業務の流れやしきたりなどを重要視し、システムを業務に合わせるべく追加開発する傾向があるということです。

写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

 これは民間企業における分析ですが、自治体においても同様の傾向でしょう。自分たちの関心が「業務」にあり、データは業務の付属物だと思うのならば、業務を処理するシステム側でその完全性を維持させる方が合理的であると言えます。

 一方で、庁内システムにどのようなデータが存在し、そのデータを扱うルールが明確に定められており、さらに職員がそのデータを自由に活用できる環境が整っていれば、職員自身の工夫によって業務の見直しや改善が可能となります。

 しかし、現実にはこれがなかなか実現しません。

 その大きな要因の一つが、多くの自治体システムがパッケージ製品で構築されており、データの入出力インターフェースが備わっていない、あるいは備わっていても自治体側に開放されていないことが挙げられます。

 自治体のITガバナンスを確立させるためには、庁内をデータドリブンでとらえる環境が必要になるのです。

 さらに言えば、庁内だけでなく庁外に対してデータを連携させていくことで、行政サービスが高度化していくのではないかと考える方も多くいます。実際、自治体システム標準化の最終ゴールはそのあたりになるのですが、なかなか苦戦することが予想されます。この話はまた別の機会にやりましょう。

 さて、今回はプログラム作成以外のAIエージェントの使い道を考えてみましょう。

「部下」のように働くAIエージェント

 まずは、AIエージェントの位置付けをあらためて整理します。

 AIエージェントは、ユーザーの代わりに自分で考えて仕事を進めてくれるAIです。人が細かく指示しなくても、目標に向かって必要な作業を自動でやってくれます。さらに、いくつかのAIを組み合わせて、今までできなかったような複雑な仕事もこなせるのが特徴です。

 筆者のイメージでは、AIエージェントは組織内における「部下」や「仲間」として位置付けています。つまり、生成AIに対するプロンプトよりもアバウトな「依頼」をすることで、作業を代わりにお願いするという感覚です。

AIエージェントの位置付け

 組織で仕事を進める際の基本的なルールだと思いますが、部下や仲間に作業を依頼する際、少なくとも次の内容は伝えることになるでしょう。

  • 作業の概要(全体イメージを共有できるレベル)
  • その作業で事前に与えられるもの(与件)
  • 作業手順が確立されているのならばその手順(プロセス)
  • その作業により期待する結果・品質(完了の条件)
  • 締め切り

 これらが伝わっていないことによるトラブルはよく見かけます。

 依頼した側は、依頼しっぱなしにするのではなく、成果物の品質を確認し、完了条件を満たしていれば受領して依頼を完了します。もし条件を満たしていなければ、修正を依頼するか、別の相手に再度依頼するかを判断する必要があります。

 このようなやり取りは、部下や仲間に限らず、外部の委託事業者、さらにはAIエージェントに依頼する場合でも同様に当てはまります。

 では、これらを踏まえてAIエージェントを使ってみましょう。

 今回はChatGPTの「エージェント機能」を使うことにします。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

SaaS最新情報 by ITセレクトPR
あなたにおすすめの記事PR