高校生のキャッシュレス利用率は62.1%、QRコード決済は50.8%――MMD研究所の調査が示す数字は、親世代の91.0%、61.0%には及ばない。しかし、一部の高校生たちは親世代以上に徹底したキャッシュレス生活を送っている。
田中君がその典型だ。「財布を持ち歩かない」と断言する彼の生活はスマホで完結する。通学の電車はモバイルSuica、自販機での購入はPayPay決済、放課後のジムもPayPayで支払っている。父親も「都内だとまず現金を持たないですね」と息子の生活スタイルに近く、店に入る時は「支払いは現金のみですか」と確認する習慣がついた。
学校もキャッシュレス化の波に乗る。小林さんが通う学校では、「高校の自販機も、PayPayを含むさまざまな決済が利用可能」という。授業中はロッカーにスマホを入れるが、休み時間は自由に使えるため、缶ジュースを買うのに小銭を探す必要はない。
しかし、友達との関係になると、その光景は一変する。
「友達はPayPayを使っていないので、割り勘は現金にしている」――田中君の言葉が、高校生のキャッシュレス事情の複雑さを物語る。小林さんも「そもそもPayPayは高校生になってから利用し始める人が多いため、使っている友達が少ない」と、学年による利用率の差を指摘する。
佐藤君は一歩進んだ戦略を取る。「名前が分かる人にはPayPayアプリ内で送金。アプリ上に登録された名前を見ても誰だか分からない人や、初めて送る人にはLINE上でPayPayのリンクを送る」など、デジタルネイティブ世代でも、送金相手の確認には慎重だ。
また、日常生活でも限界はある。小林さんは「現金でしか払えない店もある」と言い、「地方に旅行するときは、現金を多めに持っていく」という田中さんの言葉からも、キャッシュレス社会の実現には課題が残る。
この変化の中で見過ごされているのが金融教育だ。座談会で「スマホ決済の使い方の授業を受けたことがあるか」と問われた高校生たちは、全員が「ない」と答えた。家庭科の授業で断片的な話はあるものの、QRコード決済についての教育は行われていない。
高校生たちは、手探りでキャッシュレス社会を生きている。親世代よりもスマートに、しかし友達との間では慎重に。この二面性が、今の高校生のリアルなのである。
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