ベテランは距離を置き、若手は黙って去る――「職場断絶」のリアルと、その処方箋(1/2 ページ)

» 2025年09月22日 07時00分 公開

 最近、企業の職場において、世代間コミュニケーションの分断が静かに進行しているように感じます。ベテラン世代は若手社員の価値観を理解できず、ハラスメント問題を恐れてか、積極的な関わりを避ける傾向にあります。彼らからは「若い人と接するときに何を言っていいのか分からない」という声をよく耳にします。

 一方、若手世代は従来の組織文化や慣習に強い違和感を抱いています。しかし、それを声に出して問題提起しても状況が改善するとは思えず、ある日突然、静かに会社を去る選択をする人も少なくありません。

 その間に位置するミドル世代は、上下両方の世代の気持ちを何となく理解できる立場にありながら、どちらとも本音で語り合うコミュニケーションの構築に苦戦しています。

職場で世代間コミュニケーションの分断が静かに進行している。写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

 昨今、世界的に「分断」が大きな社会課題として議論される中、日本企業の組織内でも同様の現象が静かに広がっています。「職場の一体感など求めずとも、仕事は仕事と割り切ればよい」という考え方もあります。

 しかし、分断が極端に進行すると、組織の健全性や生産性は低下します。組織はつまるところ「人」の集合体です。人と人とのつながり、共同体としての側面を完全に無視しては、組織として機能しなくなります。研究によれば、相互理解や信頼関係が高まるほど、組織の生産性や創造性も向上する傾向があることが分かっています。

 今回は、組織内の分断について考えてみましょう。分断を「問題」や「悪」と決めつけるのではなく、まずはその“正体”を理解することが重要です。

 静かに進行する分断の背景はさまざまですが、ここでは「組織と個人の関係に対する価値観の違い」という観点から考えてみます。

著者プロフィール:塩見康史(しおみ・やすし)

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株式会社スコラ・コンサルト プロセスデザイナー。

クラシック音楽の作曲家として長年活動。自身の芸術分野での経験をビジネスに応用し、創造的な社会と組織をつくる支援をライフワークとしている。

主に人事分野において、教育体系構築、採用戦略策定、人事制度策定等を実務で経験、さらに創造的な組織文化醸成に積極的に取り組んだ。

スコラ・コンサルトでは、人事課題をはじめ、組織開発、ミッション・ビジョン・バリュ−策定、戦略ビジョン構築など、経営課題の全般にわたり、本質的な経営課題をあぶりだすアプローチを得意とする。共著に『わたしからはじまる心理的安全性』(翔泳社)。


JTC――日本企業に残り続ける文化・規範

 「組織と個人の関係」は、おおまかに「埋没タイプ」「半身タイプ」「孤別タイプ」の3つがあります。これらが何によって分類されるかというと、日本企業の「伝統的な組織文化・慣習」との心理的な距離感です。

 日本企業の「伝統的な組織文化・慣習」は、主に戦後の高度成長期に形成され、次のような特徴があります。

  • 同質性・協調性の重視(異質な人を排除しがち)
  • 上下関係や序列の重視
  • 合意主義・全員賛成主義
  • 家族主義的な人間関係
  • 個人より集団を優先(滅私による集団への忠誠)

 最近、JTC(Japanese Traditional Company、伝統的な日本企業)という言葉をよく耳にしますが、まさにこれはJTC"らしさ"を支える組織の文化・規範を表しています。この基盤に支えられて、戦後日本の驚異的な経済成長が実現したことも事実です。失われた30年の間に、少しずつ柔軟に変化してきましたが、いまだにかなり根強く日本企業に残り続けています。

こんなに違う「社員の組織観」 タイプ別に見る職場での行動と悩み

 この「伝統的な組織文化・規範」(以下、T規範と呼びます)に心理的に距離感が近いか、遠いかによって、 社員の「3つのタイプ」を想定することができます。以下のように、図でイメージすると分かりやすいと思います。

T規範の3つのタイプ

(1)埋没タイプ

 一つ目は「埋没タイプ」です。

 T規範にほぼ完全に同化しています。昭和中期くらいまでに生まれた人に多いケースです。少し注意が必要なのは、これらのタイプは単純に年代とひも付いているわけではなく、育った地域、環境、個人の価値観などによって異なるということです(若い埋没タイプ、シニアの孤別タイプもありえます)。

 埋没型は社会の主流の規範と同化しているため、職場での心理的な安定感は高めです。また、規範と近すぎるために自分の価値観を客観的に認識することが困難で、旧来の慣習などの問題が指摘されても「世の中、そういうものでしょ」とあまり揺らぎません。

 異なる価値観については「おかしい」「間違っている」と感じ、批判・攻撃をしやすい傾向もあります。無邪気なまでに、自分のことも他者のことも分かっていないと他のタイプからは見られます。

 一方で、T規範の外の世界に触れることに潜在的に恐れを持ちやすく、例えば定年後などは、自分をすっぽり覆っていたT規範がなくなると、急に自信や心の安定を失うこともあります。

(2)半身タイプ

 T規範をある程度受け入れている(受け入れざるを得なかった)部分と、そうでない部分が混在しています。世代的には、昭和後期〜平成初期生まれに多いタイプです。

 会社に愛着はあるものの、同時に客観的・批判的に見る眼も持っています。良くも悪くも強烈な上の世代への対抗心(カウンター)から自身のアイデンティティを形成してきたこともあり、T規範に対して批判的なことを口にしたりします。

 しかし、根っこではやはりT規範に根ざしていて、下の世代に対して無意識にT規範の立場から批判することもあり、そのアイデンティティはゆれ動いています。上の世代にも下の世代にも近く、両方の気持ちが何となく分かる位置にいますが、上下の世代からは、どことなく中途半端で迫力不足と見られがちです。

(3)孤別タイプ

 このタイプはT規範との心理的距離が遠く、ほぼ接点がないのが特徴です。

 平成中期以降生まれに多いタイプです。埋没タイプは内面化されたT規範が個人のアイデンティティとなり、半身タイプではT規範への対抗がアイデンティティとなりやすかったことに対して、孤別タイプはT規範と関わりなく、独力で「自分は何者か」というアイデンティティの探索をしなければならないという「実存的不安」を抱えています。

 それゆえに、他のタイプからは、たえず承認を求めているように見えます。同時にテクノロジーの進歩によって膨大な情報にアクセスできるので、なおさら情報の海に漂いがちです。

 会社や会社の人間関係については、「代替可能」なものと考えていますし、T規範的な共同体については、自分の人生の可能性を狭めるもの、非合理的なものとして、警戒する傾向があります。

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