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ジョブ型雇用、なぜ根付かない? 制度が形骸化するワケ(1/2 ページ)

» 2024年11月22日 07時00分 公開

 近年、日本企業の間でジョブ型雇用への移行を進める企業が増えています。各人の職務内容を明確に規定し、専門家としての貢献を求めるジョブ型雇用への期待が高まる一方で、実際に新しい制度の運用を定着させることは簡単ではないようです。ジョブ型雇用の導入は、単に制度を新しくすることにとどまらず、みずからの企業文化そのものを作りかえていくような根本的な変革の取り組みであるからです。

ジョブ型雇用の導入は単に制度を新しくすることにとどまらない。写真はイメージ(ゲッティイメージズ、以下同)

著者プロフィール:塩見康史(しおみ・やすし)

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株式会社スコラ・コンサルト プロセスデザイナー。

クラシック音楽の作曲家として長年活動。自身の芸術分野での経験をビジネスに応用し、創造的な社会と組織をつくる支援をライフワークとしている。

主に人事分野において、教育体系構築、採用戦略策定、人事制度策定等を実務で経験、さらに創造的な組織文化醸成に積極的に取り組んだ。

スコラ・コンサルトでは、人事課題をはじめ、組織開発、ミッション・ビジョン・バリュ−策定、戦略ビジョン構築など、経営課題の全般にわたり、本質的な経営課題をあぶりだすアプローチを得意とする。共著に『わたしからはじまる心理的安全性』(翔泳社)。


ジョブ型の機能不全を招く“ねじれ現象”とは?

 メンバーシップ型からジョブ型への移行で起こりがちなのが、制度はジョブ型に変わっても、組織文化は従来のメンバーシップ型のままという、仕組みと文化の“ねじれ現象”です。

 実はこの現象は人事制度に限らず、ITシステム、業務プロセスなどの仕組み・制度を新しくする際によく起こります。仕組み・制度と、それを支える組織文化がねじれてしまうと、たいていは仕組み・制度の機能不全という結果を招くことになります。

 例えば、トヨタ生産方式という「仕組み」は多くの企業が導入しましたが、その仕組みを動かすことができる組織能力や組織文化を育てることができなかったために、いつの間にか形骸化し、元に戻ってしまったという企業も多いのです。

 ジョブ型のねじれ現象について、最近こんな事例に接しました。ある企業ではジョブ型の制度を導入し、年齢に関係なく、必要なスキルを持った人材を登用できるようにしました。しかし、実際に若くして重要なポジションについた社員は、社内に根強く残る年功序列意識という見えない壁に苦しむことになりました。その社員は当初はリーダーシップを発揮しようと頑張っていたのですが、次第に無力感を感じ、自分一人で仕事をするようなスタイルへと変わっていきました。旧来の序列意識という文化が依然として大きな壁になっていたのです。

 また、別の企業では、ジョブ型雇用への移行を機に、優秀な中途採用者を積極的に採用しました。ところが、ある中途入社の社員は、いざ入社してみると、自分には重要な情報が共有されていないのではないかという違和感を持ちました。どうもそういう重要な情報は、たいていはプロパーの社員同士でこっそりと共有しているようなのです。

 その人は言いました。「悪気はないと思いますが、同じバックグラウンドを持っていないと、一緒に考える輪に入れてくれないのです」。これは、同質性にもとづく団結力を大切にする旧来の組織文化がいまだに残っていて、それが悪い形で作用してしまった例でしょう。

 ジョブ型への取り組み方はさまざまであり、もちろんジョブ型導入がうまくいっている企業もあります。一方で、うまくいかない企業では、その原因の一つとして、このような組織文化の問題が根底にある場合があるのです。そして厄介なことに、組織文化の問題は目に見えにくいため、こういうねじれ現象が起きていること自体が自覚されにくいという特徴があります。

 また、意識的に組織文化を変えようという意思をもって取り組まない限り、組織文化の変化には長い時間がかかります。その間、本来必要のない“ねじれの痛み”のようなものを組織が持ち続けることになり、組織の生産性や創造性にも悪い影響があらわれ続けるのです。

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