CxO Insights

パンで健康革命 ベースブレッドが広げた完全栄養食市場とファン作りの極意

» 2025年09月24日 08時00分 公開
[篠原成己ITmedia]

 食品業界において新興企業が大きな成功を収めるのは稀だ。そのなかで、BASE FOODは「完全栄養食」という未開の市場を切り開き、消費者に直接販売するD2C(Direct to Consumer)モデルと、サブスクリプションを武器に急成長を遂げた。2025年度通期の売上高152.4億円、売上成長率は前年同期比2.5%増、営業利益も1.3億円で、創業以来初となる通期黒字化を達成している。

 オンラインと小売を連動させたオムニチャネル戦略や、パッケージを「ブランド体験のメディア」と捉える発想で存在感を高めた。

 健康志向や時短需要、SDGsの潮流を追い風に、顧客と多くの接点を築きながら売り上げを伸ばし続ける戦略について、ベースフード社の齋藤竜太CMOに聞いた。

photo 齋藤竜太(さいとう・りゅうた)ベースフードCMO。一橋大学卒。創業メンバーとして、Webサイト運営から広告宣伝、CRM、PR、外部とのアライアンスなど、事業成長のためのマーケティング活動を統括する

ユーザー参加型の改善ループ Laboコミュニティの存在

 D2Cとは、メーカーやブランドが自社で企画・製造した商品を、卸売業者や小売店、代理店などの仲介を介さず、自社ECサイトやSNSを使って消費者に直接販売するビジネスモデルだ。BASE FOODは、そこにサブスクリプションをプラスし、D2C型サブスクリプションとして成長してきた。

 2016年に創業した同社は、「主食をイノベーションし、健康をあたりまえに。」というミッションを掲げてきた。最初のプロダクト「BASE PASTA」は、完全栄養食として注目を集めつつも、最初はユーザーに定着するまで時間がかかった。

 しかし2019年に発売した「BASE BREAD」が大きな転機となり、パンという日常食に入り込むことによって顧客層を急拡大。以降、D2C型サブスクリプションを起点に、オンラインとオフラインをつなぐ成長戦略を展開してきた。

 さらに、ECサイト内には「BASE FOOD Labo」というコミュニティを運営し、数万人のユーザーが参加する。ユーザーから商品の改良点や要望が日々投稿され、それを商品開発チームが吸い上げる仕組みだ。

 「ユーザーの声を聞いて改善し続けてきたそのトラックレコード(実績)自体が、ユーザーとの信頼につながりました」と齋藤氏は話す。

 また、通常の食品メーカーが数年単位で実施するリニューアルを、BASE FOODは数カ月単位で実施。こうした俊敏性がユーザーに「ブランドが常に進化している」という期待感を抱かせているという。

 従来の完全栄養食に対するイメージに反して「予想以上においしい」「思ったより腹持ちがいい」といった期待値超えの体験を提供することが、顧客の継続率を高める最大の施策となっている。コミュニティを通じて得られるユーザーの参加実感も、ロイヤルティ形成に大きな役割を果たしたという。サブスクリプションを単なる収益モデルとしてではなく、顧客体験を中心に組み合わせることでLTV(顧客生涯価値)向上に直結しているのだ。

photo 「BASE YAKISOBA トムヤムまぜそば」を9月24日に発売予定だ
photo BASE YAKISOBA トムヤムまぜそばに含まれる栄養素

D2Cと小売とのハイブリッド戦略

 当初はD2Cとして、デジタルマーケティングを中心に認知を拡大させてきた。2020年以降はコンビニやドラッグストアに販路を拡大した。競争の激しいコンビニの棚に置かれることは容易ではないものの、齋藤氏は「健康志向の棚を拡充したい」という小売側の戦略と合致したと明かす。

 さらに、D2Cで培ったブランドの世界観を店頭に再現。「ECで見た商品だ」と瞬時に認識させることに成功した。オンラインとオフラインのシナジーを生み出すことによって、新規顧客を獲得している。自社EC、他社EC(Amazon・楽天・Yahoo!)、さらにコンビニ・ドラッグストアなど店頭で手軽に試せる導線から定期購入へ誘導するオムニチャネル戦略だ。

 「生活に溶け込むようなシンプルなデザイン、日常の中で自然に選ばれる存在を目指し、パッケージを商品ではなくメディアと見ています」

 こう齋藤氏が話すように、パッケージを見て手に取ってもらい、裏にある商品表示を見て安心感を伝える。信頼を訴求し、パッケージをブランド体験のメディアとして活用しているのだ。

 現在の売上構成比はD2Cが約6割、小売が約4割だという。売上額ではD2Cが大きいものの、購入者数では小売の比率が高く、LTVの最大化を基軸にした顧客戦略の入口として機能している。

photo パッケージをブランド体験のメディアとして活用(「BASE BREAD さつまいも」)

SDGs時代のフードテックとして

 BASE FOOD成長の背景には、積極的な健康志向の消費者が増えていることはもちろんある。齋藤氏は、「食事の負担から解放されたいという消極的選択の市場が、実はかなり大きかった」と明かす。この食事に対する「消極的選択の市場」からも、顧客を獲得してきたことが勝因のようだ。

 完全栄養食を日常的に手軽に摂取できる環境によって、健康寿命を延ばし予防医療につながる可能性がある。予防医療につながれば社会保障費の抑制にも寄与していく。

 また、同社が有している賞味期限を通常のパンの数倍に延ばす技術は、食品ロス削減に効果を発揮しそうだ。保存料を使わずに、原材料や製法の工夫によって実現しているため、災害備蓄や自治体での導入事例も増えているという。SDGsを掲げる企業が多い中、事業モデルそのものがSDGsと直結している点が、BASE FOODの強さでもある。

photo 「BASE BREAD さつまいも」

今後の展開

 今後はアジア圏を中心に海外展開を進める方針だ。日本のコンビニで売れているという実績は、健康志向の高いアジア市場で強力な説得力を持つ。

 また、BASE FOODは、スポーツ、音楽、芸術、カルチャーなどのシーンにおいて、完全栄養食を日常の暮らしの中に取り入れ、心身の健康のベースアップをサポートする活動「BASE UP PROJECT」も展開。7月にJリーグ未来育成パートナー契約を締結するなど、トップアスリートやアーティストなどに製品を提供し、ブランドの信頼性を高め認知を広げている。

 BASE FOODの最終的な目標は「おいしく食べるだけで自然と健康になれる社会」をつくることだ。無意識の選択が健康を後押しし、社会全体の医療費削減や生活の質向上につながる。

 同社は、D2C型モデルと顧客中心主義を軸に、サブスクリプションやリアル店舗を組み合わせ、認知拡大からファン化までをつなぐオムニチャネル&コミュニティ戦略をとってきた。その結果、顧客との継続的な関係を築いている。

 今後は、AI活用による顧客インサイト分析や広告・クリエイティブ制作の効率化を進めるなど、PDCAサイクルを高速で回し、さらなるブランド価値向上を目指す。

photo

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

SaaS最新情報 by ITセレクトPR
あなたにおすすめの記事PR